第9話 マリリンは案外、包容力があって……ハバネロイチゴ味みたいな人じゃった
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ついに見つかってしまった、ワシの引き継ぎし伝説の箱庭が……。
ワシ達は顔を見合わせ頷くと、ナースリスは白蛇になってワシの首に巻き付き、それを確認してから、ゆっくりとドアを開けた。
そこには、驚いた様子で此方を見ている筋肉ヴッ――‼
「げほげほっ‼」
「臭いにゃ――ん‼」
「何と言う臭いじゃ‼ 目がっ! 目が開けれぬ刺激っ!」
「主大丈夫かにゃ!? 主、あるじいいいいいい‼」
脳をカチ割りそうな刺激臭!
ワシがフラッとした途端、フワッと体が浮き上がり、岩の上で横になっているかのような固さ……。だが、温かさを感じる。
「大丈夫か少年よ! この辺りはまだ暗黒竜の刺激臭が残っているのだ!」
「我々くらいになればこの程度なんともないが、か弱い少年には辛いだろう」
「いや、寧ろ即死級の臭いだろうな。坊やが生きている方が俺は不思議だ」
「直ぐに離れよう! 兄さんは暗黒竜を持ち帰ってくれ!」
「分かった!」
「目がっ! 目が染みるっ‼」
「おおヨシヨシ……。もう直ぐ離れれば正常に戻す目薬を差してあげよう」
「うううう……」
この声は、何度も聞いたマリリンの声じゃろう。
つまり、今ワシを抱き上げている硬い岩のようなものは、マリリンの腕⁉
ワシは、ワシはどこに連れていかれるんじゃ⁉
箱庭は⁉
『聞こえますか? 直接貴方の脳内に話しかけているナースリスです』
「ファ⁉」
『箱庭ならハヤトが離れたことで入り口は消えました。貴方が念じた所にまた扉は開くでしょう。安心してください』
――そ、それは良かった。
また戻る事になったら大変じゃったからな……。
暫くすると、臭いの全くしないところまでやってきて、今度こそ岩の上だと分かるヒンヤリとした岩の上に座らされる。
そこで目薬をさされ、何度か瞬きをすると視界がようやく戻ってきた。
目の前に飛び込んできたのは――世紀末覇者の慈愛に満ちた笑顔じゃった。
「うむ! どうやら無事のようだな! 眼球までは死ななかったようだ! 実に運がいい‼」
「眼球が死……」
「暗黒竜が死ぬとあのような刺激臭を放つのだ! 周囲にいる者共巻き込んで死ぬ為にな! だが君は運がいい! 死ななかった! 生き延びた! 目は危うく死にかけたが無事に生き延びた!」
「ひ……ぇ……」
「時に少年、君の名は?」
「……ハヤト」
「ハヤト! ふむ、異世界人特有の黒髪に黒目。君は我が夫、カズマと同じ日本とか言う国からやってきた者だろう!」
話が早いなマリリン!
流石と言うべきか否か……ワシは虚を突かれてしまった。
「実は私も、異世界……日本と通じる扉からあちらに行き来していてね! 少しはあちらの事情には詳しいんだ。異世界転生ものの書物も楽しむ程度にはな!」
「そう、じゃったのか。驚いたわい」
「ふむ、その喋り口調……。亡くなってから転生した……と言うかんじかな?」
「仰る通りじゃ。ワシは見た目こそ5歳か6歳の見た目じゃが、享年70の爺じゃよ」
「はっはっは! 実に面白い人生を歩んでいるな! だが第二の人生、大いに結構!」
マリリンの豪快な笑いと、なんでも受け入れるような懐の広さ。
見た目はとんでも覇王じゃが、こう……アレじゃ。
なんたらのイチゴ味とは言わんが、ハバネロイチゴ味くらいの差はあるじゃろうか。
しかし……マリリンに会ってみて初めて知る包容力は凄いのう……。




