プロローグ
新連載です(`・ω・´)ゞ
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――思えば、ワシの人生は本当につまらん人生じゃった。
ワシの両親はいわゆる毒親と呼ばれる人種で、幼少期は彼らの言いなりに過ごすしかなく、大人になってからも介護やら何やらで結婚も出来ず......。
結局は近所の人から後ろ指をさされつつ、両親をみとった後も社会に馴染めずおったワシは食事もまともにできなくなり、1人孤独に死んだ。
嗚呼、せめて次の人生では、極々当たり前と言われる幸せを手に入れたいものじゃ。
理解ある温かい両親。
狭くても良いから汚くない部屋で生活し。
食うものに困らず。
搾取される事なく。
次の人生では、素敵な女性と結婚出来たら……。
次の人生では、抱きしめてくれる両親を得られたら……。
「ワシの人生は……なんじゃったんじゃ……」
――それが、ワシの人生最後の言葉になり、流れた涙は汚い畳に落ちてシミになって終わった。
◇◇◇◇
その後、フワフワとした雲の中を歩きながら、ワシは此処が何処なのか分からず立ち止まった。
死んだのは間違いないのじゃが、地獄ではないのは確かじゃが天国とも違う。
辺りを見渡し、光のある方へと歩いていくと――神々しい女性が座っておられた。
彼女はワシを手招きすると、声を掛けてきた。
『ハヤトさん。貴方は随分と酷な人生を送っていましたね……私は異世界ルルリアを統べる女神、テリサバース様の従属神が1柱、ナースリスと申します』
「いせ、かい?」
『あなたが死の直前に発した切なる願いは、世界の壁を越えて私の下に届きました。そこで私は、あなたを私達の管理する世界に転生させることにしたのです。そこで貴方は新たな身体を持ち、生活する事になります』
「それなら一つどうしても頼みたい。ワシはもう毒親は嫌じゃ。1人でもええ! 1人でも生きていける場所と力があればええ!」
『1人で生きていきたい……と言う事ですか? それならこうしましょう』
ナースリスは小さく頷くと、ワシの身体に1つの光を入れ込んだ。
途端身体が縮んだような気がして、慌てて自分の手を見ると、目に映ったのは5歳か6歳くらいの子供の手じゃった。
困惑するワシに向けて、ナースリスは微笑みながら声を掛けてきた。
『まず、貴方にはその体を差し上げます。その体にはあちらの世界では【伝説の箱庭師】だった女性が亡き後、封印されていた箱庭と、彼女の得ていた知識、技術、スキルが詰まっています』
「ほお……」
『生まれについても出来るだけ貴方の理想に沿いたいですが……親もまた、我が子を選べないように、子もまた、親を選べないのです』
「そんな綺麗事など聞きとうないわ! ワシはもう毒親は嫌なんじゃ! 当たり前の、ごく当たり前の幸せを願って何が悪いんじゃ!」
心も子供に戻っておるのじゃろうか?
癇癪を起して叫ぶと、ナースリスは暫く考え込んだ後『それなら』と口を開く。
『条件付きではありますが、自分の箱庭で過ごせるようにしましょう。貴方が転生してから1年後、とある冒険者が箱庭を通りかかった時、その方に保護されるという約束をするのでしたら、貴方の望みを叶えます』
「それでええ! その冒険者とか言うのがどんな人か分からんところだけは不安じゃが……また搾取されたりするのじゃろうか……」
『そのような事はありません。まぁその冒険者は……少々変わって……んん、そうですね、ん――だいぶん変わってますが、かなり良心的な冒険者です』
言葉に思い切り含みがる。
一体どんな冒険者じゃというんじゃ⁉
しかし、女神様が言うには良心的な冒険者だそうじゃし、また毒親の元に生まれたりするよりはマシじゃろう。
『例え良家に転生させても搾取されてしまう可能性は否定できませんが、その冒険者の元にいれば、貴方は自由に羽ばたけるでしょう。自由に生きて、当たり前に手に入る筈だった幸せを手に入れたい。そうでしょう?』
「その通りじゃ」
『それなら、1年後……その冒険者に保護を求めなさい』
それならば、ワシはその冒険者に保護を求めよう。
好きに生きれるというのなら、藁にも縋る思いじゃ!
『最後にこの卵を持って行きなさい。誠心誠意育てれば、貴方に懐く何かが生まれます。それがどのような姿をしているかは分かりませんけれど、貴方には絶対服従するでしょう』
ワシは大きな卵と共にこの体には大きめのリュックを受け取り、背負う。
卵は羽のように軽く、常に傍に置いておくようにという助言に、ワシが頷くのを見るとナースリスは満足げに頷いた。
『貴方に差し上げられるものはこれで全てです。鞄には生活をする上での簡単な注意書きを入れましたのでご一読下さい』
「色々助かりましたわい」
頭を下げるワシに、ナースリスは厳かに告げる。
『伝説の箱庭師の箱庭を受け継し者よ。貴方はいずれ大いなる存在になるでしょう』
「そんな大層な者になんぞなりとうないわ。ワシは当たり前の幸せを手に入れたいだけじゃからの」
『その箱庭は使い方次第で、人を助ける事も、殺す事も出来るでしょう。でもどうか、人を助けたり愛する事を学び、正しい事の為に使ってあげてくださいね』
その言葉に思わず、ぼやきが漏れてしまった。
「ワシは自分1人でも生きていくのが大変じゃったのに……」
『それを教えてくれる冒険者に、早く会えるといいですね』
聞こえないと思っていたのじゃが、そのような事はなかったようで、それでもナースリスは慈愛に満ちた微笑みを浮かべてワシに手を翳した。
『さぁ、行きなさい。伝説の箱庭師の箱庭を受け継し者よ。異世界ルルティアへ』
その言葉を最後に、ワシは光の玉になり……空から地上へと降りていく――。