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短篇・ラブコメ(主に異世界)

悪役令嬢とヒロインは結託する

 アレクサンドラ・キリオン侯爵令嬢から内密にと呼び出された私は、内心びくびくしながらもキリオン侯爵の屋敷を訪問した。


「お嬢様、フランチェスカ・オーモンド伯爵令嬢がお見えでございます」

「ありがとう。お通しして」


 執事に案内された私は、彼女の居室に足を踏み入れた。

 窓際の丸テーブルに座り、私を迎えたアレクサンドラは、バックに薔薇でも背負ってるのではないかと思うほどキラキラと後光が射す美しさであった。

 薄紫のシフォン素材のドレスも彼女の銀糸のような髪の毛に合っており、胸元の繊細なレースは彼女の気品を引き立てている。


(いやあ、やっぱりアレクサンドラ様は迫力あるわ)


 などと思ってしまう私は前世の記憶がある元日本人である。


 前世でオタクと呼ばれる陰キャ女子だった私ではあるが、異世界転生などというものはあくまでもフィクションとして楽しむものであるという認識だった。

 マンガでも小説でもこういう設定も面白いよねえ、とのん気に楽しんでいたタイプ。

 単純に言えばエンタメが好きなだけの女であり、恋愛乙女ゲームもその一環で遊んでいただけで、リアルの推しは特撮系の俳優だった。

 どうせならライダーが実在する世界、いや推しのミコト様のいる世界線が良かった。

 前世の記憶が蘇った時に思わず舌打ちしそうになったぐらい、恋愛乙女ゲームなど優先順位の下も下だったのだ。

 所詮二次元。三次元にはかなわないと思っていた私が何故この世界に来たのか。

 十数年経っても不思議でしょうがなかった。


(しかもヒロインなんてスポットライト当たりまくりの人生など求めてないのよ)


 逆ハーレムも嫌だし、そもそも外国人の異性にはリアルで興味がないのだ。

 とは言え転生したヒロインの自分も金髪に青い瞳。

 どう転んでも日本人ではない。

 だが日本で育って来た非モテ女の前世からすると、気軽にハグして頬にキスするとか親しくもないのに密着してダンスをするなど羞恥心をひたすら刺激するのである。


(なまじ綺麗どころに生まれたばっかりにパーティーの招待は途切れないし、濃ゆい貴族の令息は馴れ馴れしくアプローチしてくるし)


 ストレスしかないセカンドライフなのである。

 呼び出されたアレクサンドラも悪役令嬢で、のちのち王子の婚約者になるのだが私に勝手に惚れた王子から捨てられてしまう可哀想な人なのである。

 まだ王子から具体的なアプローチはないが、私が数カ月後に学園に入学を控えてる。

 先輩後輩の立場になると何かあるんだろうなあと警戒していたが、にしても少々早い。

 望んでもいないモテ期で頼んでもない嫌がらせを受ける。

 まったく迷惑な話だ。

 モブでいい。何なら貴族でなくて庶民で良かったのだ。


「美し過ぎることが罪なのね」


 なんてジョーク、本気で思う羽目になるとは。

 だがアレクサンドラの呼び出しは、少々事情が異なっていた。



「まあ……」


 私はアレクサンドラの話を聞いて、アホのように間の抜けた返事を返してしまった。

 彼女も前世日本人の転生者だった。


「よろしいのよ。信じていただけるとは思っていないわ。だけど事実なのよ」


 彼女の場合、私と違い陰キャでもなければオタクでもなかった。

 妹がハマっていた恋愛乙女ゲームの話をよく聞かされていたため、この世界に聞き覚えがあっただけらしい。


「わたくし、これから学園に入るあなたをいじめなくてはいけないみたいなの。しかも殿下と婚約して婚約破棄までされるらしいの。ひどい話ではなくて?」

「さようでございますわね」


 私は無難に答える。

 ここで実は私も日本からの転生者でというのは簡単だが、だてにヒロインポジとして生まれていないのだ。不用意な発言はヒロイン要素を高めかねない。

 物心ついてから美しいが控えめなご令嬢として、目立たず静かに生きて来たのである。

 悪役令嬢である彼女と転生者同士として親密度が増すのはフラグかもしれないのだ。

 ここは黙って聞き役に徹しよう。


「……フランチェスカ様はわたくしを狂人とは思わないでくださるのね」

「前世というものがないとは言い切れませんもの」


 はらはらとこぼれ落ちる涙も私の手を包む白く細い手も庇護欲をそそる美しい淑女なのに、なんで王子は私なんかに惚れるのかしらねえ。ただの節操なしか。

 まあ王族なんて権力使い放題だものね。


「わたくしあなたをいじめたりもしたくないの。だって気分が悪いじゃない?」

「そうしていただけると嬉しいですわ」


 彼女が転生者だったことで学園生活が少しは快適になるかもしれないと思い、私は笑みを浮かべた。


「ただ、殿下はあなたにお譲りしたいの」

「──は?」


 いけない。思わず素が出てしまった。ご令嬢らしくない。


「めっそうもございません。家格も品位も私は殿下にふさわしくございませんし、アレクサンドラ様ならお似合いですわ」

「お似合いと言われてもわたくし、殿下にまったく興味がありませんのよ」


 深いため息をついて彼女が打ち明けてくれたのは、性癖である。


「わたくしね、同世代の殿方に魅力を感じませんの。前世の頃も同じでしたけれど年上、それもかなり年上の方に惹かれますの」

「さようでしたか」


 彼女の守備範囲は最低でも四十代以上。五十代や六十代が一番好みだと恥ずかしそうに教えてくれた。


(まさか看取り専とは)


 こんな愛らしい美人がもったいない話である。

 年上が好きな女性は多いが、そこまで離れていると確実に相手があの世に行くのが先だ。


「ですからね、同い年の王子など男の色気ゼロ、加齢臭ゼロ、人生経験が刻まれたシワもゼロなんて、お願いされても伴侶にはお断りしたいのですわ」


 確かに若者に加齢臭はないだろう。思った以上の特殊性癖だった。


「そうは仰っても、アレクサンドラ様のご身分でも殿下との婚約が結ばれてしまえば簡単には」

「ええ分かっておりますわ。ですから今のうちに後添えを狙って年配の方が多いパーティーに参加しておりますのよ」


 チェスや乗馬、音楽鑑賞などの集まりは意外と高齢者の趣味人が多いらしい。

 いや別に私は看取り専ではないのでそんなプチ情報はいらない。

 しかし私は彼女の話を聞き未来に希望を見出した。


 ゲームはあくまでも大筋の流れとしてのストーリーはあるが、登場人物で変化する。

 要は転生者など存在しない場合の物語であって、私やアレクサンドラのように物語への思い入れもそんなにない人間が転生した場合、ブレが起きるのだろう。

 ということは、私がヒロインとしてのさばらない世界線も努力次第で存在するということだ。


「アレクサンドラ様の恋、私も陰ながら応援いたしますわ」


 私の言葉で彼女は安心したように笑顔になった。


「でしたら殿下はフランチェスカ様が」

「いえ殿下は私も必要としておりませんの。王族との婚姻など大変ではございませんか」

「まあ……」


 しょんぼりした彼女に「それで」と続ける。


「アレクサンドラ様はもう社交界に出ておられて、年頃の貴族令嬢を把握されておりますわよね?」

「え? ええそれはもちろん」

「私も困る、アレクサンドラ様はもっとお困り。であれば、他のご令嬢にお願いするしかございませんわ」


 アレクサンドラ様が殿下の婚約話になる前に意中の大人の男性を見つけて婚約をする。

 そうなれば私が学園に入ったところでアレクサンドラ様が私をいじめる必要もないし、殿下も他の相手がいれば私にちょっかいをかけることもないだろうと伝えた。


「前世の記憶のお話が本当であれば、展開が異なれば歴史も変わると思いますの」

「フランチェスカ様の仰る通りだわ! お綺麗で野心があってそれなりの高位の貴族なんて、いくらでもいますものね。私が魅力的なロマンスグレイの殿方を先に得てしまえば」

「アレクサンドラ様ならよりどりみどりですわ!」

「私の話をバカにもせず応援までしていただけるなんて! フランチェスカ様はお人柄も素晴らしい方だったのね」

「とんでもございませんわ。そんな秘密を話してくださるほど私を信用いただけるなんて、アレクサンドラ様は侯爵令嬢として器の大きさが違いますわ」


 私と彼女はがっしりと手を握った。

 協力体制が出来上がった瞬間である。


 私も転生者だと打ち明けるかは、彼女が好みの爺様を見つけて完全に流れが変わるのを見届けてから考えよう。警戒しておくに越したことはないのだ。

 個人の好みとはいえ、出来れば十年ぐらいは長生きしてくれる人を見つけてもらえますように。





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― 新着の感想 ―
臭いを感じる部分は、大脳の中でも本能に直結した部分だと聞きます。 その臭いがOKということは、アレクサンドラ嬢の好みは本物なんでしょうね。 若い娘が父親の臭いを嫌うのは、近親相姦を防ぐ本能ともいいます…
タイトル通り、協力体制を組みましたね。 主人公のしたたかさも魅力的でした。
 楽しく読ませていただきました。いや、仲良きことは良いことかな。  しかし、加齢臭が好きな人って現実にはいるのだろうかと、つい疑問を持つ私。
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