第八話 ギルド崩壊の予兆
ここは赤い風冒険者ギルド。
銀の月冒険者ギルドとは違い、多くの冒険者で賑わう場所だった。
しかし、今日はその様子にも変化が見られ……。
「おい、聞いたか? 神官が5人も銀の月に移籍したらしいぞ」
「5人って男神魔法を使う方か?」
「違う、あんなゲイじゃねえ、女神魔法を使う神官だ」
男神魔法の使い手は、性的マイノリティであると誤解されがちだ。
実際そうである者は、50%程度であるらしい。
「なんでそんなことになったんだ?」
「わからねえ、詳しい話は聞いてみないとなぁ」
「まぁ、神官がいなくても代用できる魔法の使い手はいるが……」
「馬鹿、全然違うだろうがよ! かわいい女に手当てしてもらうのと、変なおっさんに介抱してもらうのじゃ天と地の差がある!」
女神魔法の使い手は圧倒的に女性が多い。
中には男性もいるが、レベルが低く数も少なかった。
「女神魔法を使う女が5人移籍か……やべえな」
「これは衝撃なんじゃないか?」
今、赤い風に登録している冒険者は100名弱ほど。
ただ、その男女比率は男が圧倒的に多かった。
今回のことが問題ない人間は、ほとんど冒険に出ている。
ダンジョン探索やクエスト、街や近隣の村から来る依頼などだ。
神官が移籍することで問題を抱える人間の多くが、ギルドに残っていた。
「浮き足立たなくてもいいざます! 何も問題はないざますから!」
インテリ眼鏡が酒場で声を上げる。
でも、冒険者達は少し不満そうだった。
「神官がいなくなった分はどうするんだ? 出かけられねえパーティーもあるんだぞ?」
「神殿に掛け合って興味のある人間をスカウトしてくるザマス!」
「そんな物好きがいるのかねぇ」
神殿にいる神官は、多くが冒険に興味のない者達だった。
だが修行や善行を積むということで、積極的に冒険に参加する者もいる。
「金を積むか? まぁ、やってくれなくちゃ困るがな」
「早くしてくれよ? オレ達は出かけられないぜ」
「わかっているざます、今は女神魔法のいらない低層を探索するざます」
低層はレベルも上がらず儲けも少ない。
危険は少ないので、堅実なパーティーは好んで出かけるが……。
「嫌だぜ、低層なんか」
「クエストも依頼もないのに、低層なんか物好きしか行かねえよ」
「勝手にするザマス! 神殿から有望なのを引き抜いてくるザマス!」
インテリ眼鏡は頭から湯気を立てながらギルドを出て行ってしまった。
「潮時かもな」
「向こうに移るか?」
「オイオイ、飯も酒も出ないギルドでなにすんだよ」
そこにひとりの男が飛び込んでくる。
赤い風では馴染みの顔だ。
「オイおまえら! ミックス達のパーティーが銀の月に移籍したぞ!」
「なに!?」
酒場の中が一気にざわつく。
動揺が広がっていくとは正にこのことだった。
「あいつら、神官がリーダーだったからな、一緒に移籍したってことか」
「俺はイヤだね、酒のないギルドなんて無理だ」
「それがな、なんでも、酒も飯もあるらしいぞ」
「なにっ!?」
朝に出かけたおばあちゃんは、昼過ぎになると帰ってきた。
「おかえりなさい、おばあちゃん」
でも、おばあちゃんの後ろには荷物持った人が4人いる。
冒険者には見えないけど……誰だろう?
「今日からここで働く4人だよ、コットンが面倒を見ておやり」
「えっ!? 冒険者なの?」
「いや、コックとウエイトレスさね」
「コックさん!?」
うちのギルドには酒場も厨房もあるけど、作る人も利用する人もいない。
特に、冒険者が激減したこの7年間で、酷いことになっていた。
「今日からってわけにはいかないだろうが、準備が出来たら開店するよ」
「そんなに急に! どうやって見つけてきたの!?」
「なに、潰れそうなレストランを買い取ってきただけさね」
簡単に言うけど、そんなお金どこにあったのか。
いやいや、そうじゃなくて、潰れそうなレストランのコックさんて、味とか大丈夫なの?
「この街は不景気だからね、腕が良くても職にあぶれているのなんて五万といるのさ」
「うーん」
こういうこともあるかと目星を付けていたんだろうか、怖い。
「あの、すみません」
そこに、4人組の冒険者が入って来た。
なんだろう? 赤い風の人かよその土地の冒険者か。
「赤い風を辞めてきたミックスと言います、こちらでお世話になれないでしょうか」
わたしは見た。
おばあちゃんが邪悪に笑うその瞬間を。