第七話 予言者の妖精さん
その夜、外が少し騒がしかった。
なんだろう?
妖精さんが来るから、気をつけておいてとガブリーとサーリャには言ってあったけど……。
「コットン様、ちょっといいでしょうか?」
サーリャの声だ。
「妖精さんが来たの?」
「それが、ちょっと面倒なことになっています」
「今行くね」
サーリャと一緒に外に出る。
すると、そこには妖精さんがいるんだけど……神官っぽい格好をした人が他に何人かいた。
「ここが銀の月じゃな?」
妖精さんだ。
なんか、おばあちゃんみたいなしゃべり方だけど、見た目はかわいい妖精の女の子だ。
「そうです、ここが銀の月冒険者ギルドです」
「ワシを登録してくれんか」
なんか困っている様子だ。
どうしたんだろうか。
「後ろの人はなんですか?」
「ワシは予言者なのじゃ、いくつかアドバイスをしたら着いて来おった」
「そ、そうなんですか?」
後ろの人達に聞いてみる。
「私達は女神様の予言を確かに聞きました。女神様を信仰する者にとって、これ以上ない奇跡でした」
「預言者様が銀の月に入るのなら、私達も登録して下さい」
なんか必死な感じだ。
武器を持っているから、多分神殿の人じゃないんだろう。
「あの、赤い風の人達ですか?」
「そうです、向こうは辞めますので、こちらに登録してください」
これは、思ってもみなかったチャンスが転がり込んできた。
神官を引き抜けるというところが更に良い。
神官はあまり冒険に興味のない人が多いんだけど、パーティーには欲しい役割の人だ。
引き抜きのドミノが起きるかも知れない。
「待ちな」
後ろの扉から出て来たのはおばあちゃんだった。
「おばあちゃん! 銀の月のギルドマスターだよ」
「おお、これは話が早い」
神官の人達が期待の目で見ている。
「まずは、向こうを辞めてきな、そうしないと筋が通らないさね」
やっぱりそうかー。
ゴタゴタするのはイヤだからね。
「わかりました」
「では、その後に登録をお願いします」
「そうさね、まぁ、もうこんな夜だ、つづきは明日にしな」
「うん、わかったよ」
「はい、わかりました」
神官の人達が頭を下げる。
神を信仰しているだけあって礼儀正しい。
荒くれ者じゃないのは、いい気がした。
「ワシはもう登録してくれー、赤い風には入っとらんのじゃ」
「ふん、この妖精だけ登録しな」
「う、うん」
おばあちゃんはニヤリと笑うと、家の中に入っていった。
さすが、やり手と言われる貫禄がある。
亀の甲より年の功とはこのことか。
「なにかありましたか?」
サーリャと視線が合うと不思議そうに首をかしげた。
年の功で言えば、サーリャは1000年生きているけど、さすがにこれはノーカウントだよね。
「なんでもないよ、中に入ろう」
「はい」
取りあえずこの日は、ギルドに登録を済ませて終わりにする。
妖精族が泊まる特別な部屋を用意していたので、そこに妖精さんを案内して寝た。
次の日。
「お邪魔するざます!」
朝早くからインテリ眼鏡さんがやってきた。
神官の5人も一緒に連れてきている。
「お、おはようございます……」
「ふん、ギルマスはどこザマすか!? さっさと出すザマス!」
「朝から騒々しいね、なんの用だい?」
おばあちゃんが奥から顔を出す。
なんというか頼もしい。
迷惑そうな顔をしながらキセルを吹かしている。
なんの用かなんてわかっているのに。
「なんの用かじゃないザマス! ずいぶんと卑劣な真似をしてくれたみたいザマスね!」
「なんのことだい?」
「とぼけるのもいい加減にするザマス! この5人を引き抜こうとしてる件ザマス!」
インテリ眼鏡さんのボルテージが上がっても、おばあちゃんは意に返さない。
ぷかぷかとキセルを吹かしている。
「神官を5人も引き抜かれて焦ってるのかい? 若いねぇ」
「くぅーっ! インチキ予言者を暴いてやりますからここに出すザマス!」
「コットン、呼んで来な」
「その必要はないのじゃ、うるさくて目が覚めてしまったわ」
妖精さんが、ふらふらと飛びながらやってくる。
めんどくさくて眠そうだ。
飛び疲れたのか、わたしの頭の上に乗っかった。
「オマエがインチキ預言者ざますね」
「預言者様!」
「赤い風は辞めてきました!」
神官さんたちが声を上げる。
「待つザマス! 今化けの皮を剥がしてやるザマス!」
「妖精さん、あのね……」
わたしは妖精さんに状況を話してみる。
神官さん5人が妖精さんと一緒にいたくて移籍したがってること。
それをよく思わないインテリ眼鏡さんが怒鳴り込みに来たこと。
「しょうがないのぅ、疲れるからやりたくないんじゃが」
「何をするざますか? インチキ預言ざますか?」
「インチキではないことを見せてやるのじゃ、<コールゴッド>!」
急に部屋が暗くなる。
コールゴッド!?
女神様を呼び出す最上級の魔法だ!
すると、妖精さんの目の前にひとりの女性が現れた。
輪廻の女神アニエル様だ。
「久しぶりですね、コットン」
「は、はい、お久しぶりです女神様」
この本物感を前に、インテリ眼鏡さんも声を出せずにいた。
神官さん5人は床に平伏している。
「この妖精は女神の探求を行っているものです、保護してあげてください」
女神様は、妖精さんが造られたものだってわかってないのかな?
そんなはず無いか。
「わかりました、全力を尽くします」
「それでは、また……」
女神様が消えた。
部屋の中も明るくなる。
「つ、疲れる……朝起きて、いきなりコールゴッドはないのじゃ」
妖精さんが、へろへろとわたしの手の平に落ちてきた。
「に、偽物ざます! 騙されては……」
「もう赤い風は辞めてきました、こちらに登録を!」
「わたしも!」
「私も!」
もう誰もインテリ眼鏡さんの言葉を聞いていない。
それくらい、女神様のインパクトはすごかった。
「さて、これは忙しくなるね、コットン後は頼んだよ」
「う、うん!」
おばあちゃんは、悪い顔をしてどこかに出かけて行った。