第六十二話 コールゴッドの使い手
サーリャが帰ってきた日の夜。
わたしは、冒険から帰ってきたオリーブを掴まえた。
「ねえ、オリーブ、貴女の家は今神殿にどれくらい影響力があるの?」
「なんですの、藪から棒に」
あまり楽しくない話題なのか、乗り気ではない。
「ちょっと教えて欲しくて」
「寝たきりのお爺さまが最高司祭でしたが、父上や母上はまだ若く、影響力と呼べる程のものはございませんわ」
ほうほう。
じゃあ、もう引退した感じなのかな?
「お爺さんは、どうして寝たきりなの?」
それだけの権力がある人なら、大往生まで元気に過ごせそうだけど。
「ある日突然倒れましたの、呪いの類かとも思いましたが特定できずですわ」
「病気ではない感じ?」
「様々な魔法も薬も試しましたが、効果がありませんでしたわ」
なるほど。
そう言うからには、色々と試したんだろう。
「それこそ、治癒の神ヒュギーアのコールゴッドでもなければ治せないと、この国一番の治癒術師に言われましたわ」
おお、そういう突破法があるんじゃないか。
「ヒュギーアのコールゴッドが使える人は、この辺りにいるの?」
「遠い異国の地ですわ、しかも来てもらうなど不可能です」
これは来たか、モンスター作成の出番が。
鍵を使って来てもらうという手もあるかも知れないけど、政治的にもそれはなかなか難しいだろう。
「もし、ヒュギーアのコールゴッドが使える知り合いがいるって言ったら信じる?」
「本当ですの!?」
オリーブはびっくりしている。
そんなの、もう十分に探したからだろう。
「ちょっと、お爺さんにお願いもあるんだけど」
「信じます、お願いもきっと聞いて下さるでしょう」
ふぅ……いけるかな。
「くれぐれも、内密にね」
「わかりましたわ」
「それじゃあ、手配が着いたらまた声をかけるから」
ヒュギーアは女神だから女神魔法の使い手を作成するんだけど、ヒュギーア限定にしないといけない。
しかも、コールゴッドを使えるとなると、SSかSSSないと不安だ。
妖精さんは女神魔法Sでコールゴッドが使えたけど、女神様の知り合い? みたいな感じだった。
やはり、多少無理をしてでもヒュギーアSSSを狙おう。
かなり時間がかかると思うから、夜、ご飯を食べると早々に部屋に引きこもった。
「さあ、始めよう。モンスター作成」
はっ。
ほっ。
てりゃ。
うーん……。
一時間が経過した。
ちなみに、ヒュギーアSですら0人だ。
これは、SSSなんて厳しいかも。
でも、諦めるわけにもいかない。
むんっ。
ふっ。
ほうっ。
三時間が経過した。
まだヒュギーアSが0人だ。
なんだか、昔を思い出す。
こうやって徹夜してモンスターを作成していた。
はっ。
ふっ。
それっ。
更に三時間が経過した。
ヒュギーアSですら0人だ。
「これは……」
運に任せていたら作成できないね。
どうしよう。
妖精さんに助言を貰おうかな。
夜型だから起きていると思うし。
ちょっと妖精さんに会いに行こう。
みんな寝ているから、起こさないように音を立てずに妖精族の泊まる部屋に行く。
「妖精さん、起きてる?」
「なんじゃ?」
妖精さんは起きていた。
なんか、瞑想みたいのをしている。
「ヒュギーアのコールゴッドを使える人を探しているんだけど、預言をもらえないかな」
「ふむ、どれどれ……」
妖精さんは、気力が充ち満ちているのか、すっと預言に入ってくれた。
「ふむ……シールズという名前、女、年齢は14歳、コルシアを信仰している……」
「コルシアを信仰しているのに、ヒュギーアのコールゴッドが使えるの!?」
コルシアと言えば、芸術の神だ。
どういうことだろう……。
「わからん、ワシが言えるのはこれだけじゃ」
「うん、ありがとう、妖精さん」
わたしは部屋に戻って、モンスター作成のつづきをする。
名前をシールズに固定、女、14歳、コルシア。
これだけ固定して作成する。
はっ!
来た……。
【名 前】 シールズ
【年 齢】 14
【職 業】 学者の卵(C)
【レベル】 1
【体 力】 D/C
【魔 力】 E/D
【信仰心】 E/A
【筋 力】 D/C
【生命力】 D/C
【素早さ】 D/C
【知 恵】 E/B
【幸 運】 D/C
【成長率】 E/C
【スキル】 吟遊詩人<S>、コルシア<SS>
【因 果】 旅芸人
【装備品】 短剣(E)、楽器(C)
【気持ち】 歌いたい、もっと歌を知りたい
レベルは1、冒険者じゃない。
でもコルシアはSSだった。
職業は学者の卵、因果は旅芸人となっている。
目立ったアイテムはない。
でも、吟遊詩人がSだ。
旅をしながら芸でお金を稼いでいる学者の卵。
そういうことなんだろうか。
わたしは、銀の月で活躍すると付け加えて作成する。
「うっ……」
かなりポイントを持って行かれたけど、最近使ってなかったから大丈夫だ。
私の素性を知っている、サーリャ、ガブリー、メアリーを呼んでくる。
「シールズっていう旅芸人がいるから、探してきて欲しいの。14歳、女性だよ」
「お任せ下さい」
「夜ならば出歩いている人間も少ないはずデス」
「行って参ります」
「お願いね」
窓を開けると、空の彼方が明るくなり始めている。
徹夜しちゃった。
そして、一時間ほどが経過した。
シールズを連れてきたのは……メアリーだった。
「旅芸人のシールズ様です、橋の下で歌を歌っておられました」
こんな夜中に迷惑な。
「ここが銀の月ですか、お世話になろうと思っていたんです」
「そうなんですね」
わたしがそう書いたからね。
「流行っている酒場なのに歌い手がいないということで、興味があったんです」
「どんな曲が歌えるんですか?」
「様々な神々に関する歌です、魔法のような効果も出ます」
ほうほう、こうやってつながってくるんだ。
「ヒュギーアに会いたいんですが、歌えますか?」
「もちろん、得意です」
よしよし。
徹夜した甲斐があった。
「神々の詩は、原文に近づけるほど威力が高くなり、原文そのままだと神様が現れるんですよ」
「神様を呼んで大丈夫なんですか?」
「現れた神様の機嫌が悪ければ、どんな罰を受けるかもわかりません」
「それは怖い、どうしようか……」
「ヒュギーアは穏やかな神なので、失礼がなければ罰は受けないと思いますが、お願いを聞いてもらえるかはわからないですよ?」
「わかりました」
これで色々な神様のコールゴッドを使えるなら、シールズさん最強クラスのレア人材だ。
「では、今日にもお願いしたいです」
「承知しました」
さて、上手くいくかどうか。
オリーブは銀の月で部屋を借りているので、起きてきたら声をかけよう。
そう思いながら、わたしはシールズさんを一階の酒場に案内した。




