第六十一話 セヴェリーネの真実
サーリャが旅に出てから一週間ほどが経過した。
その間に、食料品の買い取り価格は下がり、依頼の数も減っている。
天上の歌……というより、ラドクリフの思うようにことは推移しているんだけど、黄金都市に行けていることで冒険者の不満は少なかった。
「ただいま戻りました」
「サーリャ!」
鍵を使っているからか、長旅という感じではなく、ちょっと出かけて帰ってきたくらいの雰囲気だ。
元々がタフなんだけど、疲れは微塵も感じさせない。
「色々と成果がありました」
「座って話そう、飲み物飲む?」
「いえ、大丈夫です、まず、セヴェリーネの街で国王は何をしようとしたのか掴めました」
おお、それは謎だったからありがたい。
どうして、冒険者のいない街になったのかわかれば、ラドクリフの狙いや考えも推測できる。
「国王は、セヴェリーネの街で新しい神を誕生させようとしたようです」
「神様!? そんなこと可能なの!?」
わたしのモンスター作成でも、神様は作れない。
当たり前だけど、人工の神様なんて存在するはずもなかった。
「ところが、そのための人材とアイテムは揃っていたようなのです」
すごいな。
さすが国王様。
「新しい神様って、なんの神様なの?」
多分それが問題だ。
邪神の類だったらとんでもない。
「新しい神とは、モンスターを司る神だったようです」
「モンスターの神!」
わたしは、モンスターを司る神というのを聞いたことがない。
でも、間違いなく混沌に属する邪神の類だろう。
「モンスターを作成して、戦争に使おうとしていたようですね」
「もしかして、冒険者を追い払ったのは、モンスターを殺すから?」
「そのようです、モンスターがたくさんいる土地の方が、神の創造に成功しやすいようでした」
「はぁ~」
やっぱり、戦争がこの世界を蝕んでいる。
権力のある人は、それに夢中だから色々おかしなことになっているんだ。
「でも、失敗したんだよね?」
ザカール国がモンスターを使役して、戦争で勝っているなんて話は聞いたことがない。
「はい、失敗しました。そして、セヴェリーネは多くのモンスターが発生しない土地になったようです」
そういう副作用もあると。
モンスターが減ったら、逃げて行った冒険者も戻ってこないだろう。
「問題なのは、国王がモンスターの神を創造することを諦めていないということです」
「次は、この街……アンデマンドで試すつもりなんだ」
アンデマンドもダンジョンが多く、モンスターが多い土地だ。
詳しいことはわからないけど、多分、邪神創造の条件を満たしているんだろう。
「それともうひとつ、ラドクリフの信仰している神アルクメーネについて、調べが付きました」
「すごいね、どうだったの?」
「まず、ミクロメリウスでは邪神崇拝が蔓延っていると思いますが、ラドクリフはザカール国でも邪教を流行らせようとしているのではないかと思います」
国王が、そんなことを許すはずはないから、ラドクリフの独断だろう。
アインザックさんも知らないはずだ。
「アルクメーネは秩序に属する神なのですが、混沌の神に寛容なようです」
「そんな神様がいるんだ……」
秩序の神と混沌の神は、相容れない。
でも、その中間くらいの神様がいるということだろう。
「ラドクリフの故郷では、様々な土地を追われた、様々な邪教の信徒が逃げてきていました」
「それって、大丈夫なの?」
「いえ、国に見つかれば村を滅ぼされるレベルでしょう」
そうだよねぇ。
でも、邪神の信徒が逃げてきているということは、アルクメーネには何かありそうだ。
「そして、アルクメーネが、新しい神を誕生させる鍵となっているようです」
「じゃあ、ラドクリフはアルクメーネのコールゴッドが使えるとか?」
「ご明察です、国王は、そのためにラドクリフをこの街に派遣したのでしょう」
「これは大変だ……天上の歌がどうとか言っている場合じゃないね」
「はい、推測も混じりますが、私の掴んだ情報は以上です」
邪神の創造なんて、この国の神殿がOKしているはずがない。
神殿は、国の管轄を離れ、独立した強い組織だ。
そこから横やりを入れられないだろうか。
わたしは、静かに考えていった。