第五十七話 新たなパーティー
翌日、セレシュちゃん……というかトレイシーがギルドに来る。
「お待たせしましたマスター、賢者の学院を卒業して参りました」
本当に賢者の学院を卒業してきたんだ。
しかも一日で。
「どうやったの?」
「賢者の学院ですからね、これを見せればイチコロだと思ってました」
トレイシーが持っていたのはきれいな石……じゃなくて、賢者の石だった。
「よくそんなアイテム持ってたねぇ」
「ハッ、お褒めにあずかり恐縮です」
トレイシーは喜んでいる。
転位した後もアクセスできるような、わたしと同じ細工をしてあったんだろう。
ちなみに、愚者の石と賢者の石を揃えると、モンスター作成が使えるようになる。
そこまで高レベルなものではないけれども、一応そういう機能もあった。
もちろん、それは副次的な効果で、単品でも滅茶苦茶すごいアイテムなんだけど。
「偶然の抹殺もしたの?」
「はい、術は掛けました。偶然を装うので、成功率は90%くらいだと思ってください」
90%か……アインザックさん、さようなら。
ママに手を出すみたいな脅しをしなければ、全力でトレイシーを止めたんだけど。
「じゃあ、今日からトレイシーが入るパーティーを紹介するから、こっちに来て」
「はい、サーリャなど、すぐに超える働きをしてみせましょう」
わたしが向かった先のテーブルには、フラニールさんと魔法使いのお姉さんがいた。
この2人は付き合っているのかな?
フラニールさんは仲間が多いけど、このペアが崩れることはないみたいだ。
「フラニールさん、話していた新人冒険者です」
「ああ、ワケありらしいな」
トレイシーにワケはない。
なんのことを言っているかというと……。
「よろしくお願いします、デイジーといいます、こっちはデスタです」
「ワオン」
「私はオリーブですわ、よろしく」
冒険はお預けとなった2人を、急遽フラニールさんに率いてもらおうと思ったのだ。
理由は、トレイシーが来たこと。
トレイシーがいれば、余程のことがない限り安全だ。
「さあ、セレシュちゃん」
「わ、私はセレシュです、きょう賢者の学院を卒業してきました、立派な冒険者になります。よろしくお願いします」
「お、おう……なんか、平均年齢の若いパーティーだな」
フラニールさんがそう言いながら、魔法使いのお姉さんの方を見る。
「いてっ!」
すると、机の下で足を踏まれていた。
女性に年齢のことは禁句なんだなぁ。
「私はパーシア、こっちがフラニール、仲良くやりましょ?」
「はい、よろしくお願いします」
「大きなギルドの御曹司だったんですってね、頑張りましょう」
オリーブの家も、お爺さんが凄かったらしいから親近感があるのか。
お家再興を狙う2人なのかも知れなかった。
「じゃあ早速、広きダンジョンで冒険がしたいです」
トレイシーがそんなことを言った。
広きダンジョンとは、ガブリー達が探索していたダンジョンで、上層でも50レベル、しかもトラップなんかも多い、難しいダンジョンだ。
フラニールさんが難しい顔をする。
「反対だ、いきなりそんなところに行けるはず無いだろう」
「私は賛成ですわ、早く一流の冒険者ならなくてはなりませんの」
「気持ちはわかるが焦りは禁物だ、死んだら一流も何もない」
そこでデイジーがわたしを見る。
「デスタは、広きダンジョンに行けますか?」
デスタなら行けるだろう、罠なんかも見つけてくれるはずだ。
「デスタなら大丈夫ですよ、この辺りのダンジョンで、デスタが行けないところは少ないです」
「そうなんですね……それなら、ボクは賛成です」
「おいおい……」
フラニールさんが頭を抱える。
先日、初めて引率無し(?)のダンジョンデビューした二人組みと、賢者の学院を卒業したての7歳の魔法使いを率いて、50レベルのダンジョンに向かうのはあり得ないだろう。
常識人のフラニールさんなら、反対するはずだ。
「じゃあ、私ね、私は賛成」
「はぁ? パーシアまで何言ってるんだ!」
どうも、パーシアさんはトレイシーの強さに気が付いているみたいだった。
同じ魔法使いとして、トレイシーの魔力の高さを感じ取っているんだろう。
「いけばわかるわよ、もちろん油断は無しだけどね」
「お前がそう言うなら……わかったよ、信じることにする」
「それじゃあ決まりですね、冒険に不慣れな3人は、フラニールさんとパーシアさんの言うことを良く聞いて下さい」
みんな頷く。
そして、冒険の準備を終えると、新たな5人組のパーティは出かけて行った。




