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地位を奪われた元ダンジョンマスター、7歳のギルド受付嬢に転生して冒険者を作成し、自分の作ったダンジョンを攻略します  作者: 夕綺柳
第二章

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第五十六話 双璧のトレイシー


 翌日のお昼過ぎ。


 なにか視線を感じてそちらを見ると、店の入口から覗いている顔があった。


「子供?」


 いや、わたしも子供だけど……。


 わたしの視線の先を追ったのか、モルソー君が大きな声を出す。


「あっ、セレシュ、こんなところに来ちゃ駄目じゃないか!」


「セレシュ?」


 モルソー君が入口に歩いて行く。


 知り合いみたいだ。


「だって、お兄ちゃんに会いたかったんだもん」


「仕方が無いなぁ」


 仕方が無いとか言っているけれど、モルソー君はデレデレだった。


 妹さんがかわいいんだろう。


「モルソー君の妹さん?」


「そうです、すみません」


 モルソー君の妹さんは、賢者の学院に通っている魔法の素質有りの子だ。


 賢者の学院とは、街々にある魔法使いギルド兼養成所みたいなところで、ここに通わないと魔法使いとして出世は出来なかった。


 もちろん、冒険者として生きていくなら無問題だけど、いずれ研究とかしたいなら、所属しておくと便利なはずだ。


「思っていたよりも若いんですね、わたしと同い歳くらいかな?」


「いつまでも甘えん坊で、コットンさんとは大違いですよ」


「おいで、美味しい飴をあげる」


 わたしは、ポッケから紙に包んだ飴を取り出す。


「ああ、甘やかさないでください、すぐに帰らせるんで」


 でも、セレシュちゃんは飴に飛びついてきた。


「わーい、飴だー!」


「はい、お菓子はなかなか手に入らないからね」


 セレシュちゃんがわたしのところに抱きついてくる。


 ふわっと甘い匂いがした。


「マスター、遅くなりました、貴女の最愛の部下、トレイシーです」


 うぇ!?


 セレシュちゃんがそうつぶやく。


「どうしましたか?」


 わたしの動きが止まったのを見て、モルソー君が不思議がる。


「う、ううん、なんでもないよ」


 トレイシー? トレイシーと言えばサーリャと並んでわたしの部下の双璧だった呪詛師だ。


 魔法使いの一種なんだけど、呪いみたいなのを得意としている。


「そうだ! セレシュちゃんにお土産をあげるから、お姉ちゃんのお部屋まで来て」


「わーい、おみやげだー」


 演技力高い。


 トレイシーにこんな特技があったなんて。


「い、いいです、コットンさん。甘やかさないでください」


「ううん、ちょっと、お店の方をよろしくね」


 モルソー君も、この半年で大分仕事を覚えて来た。


 いざとなればおばあちゃんもいるし、少しくらい大丈夫だろう。


「じゃあ、こっちに来て?」


「うん!」


 わたしは部屋にトレイシーを入れる。


 すると、わたしよりも背の小さな少女が片膝を付いて頭を垂れた。


「面目ありません、記憶を取り戻したのが昨日の夜でした」


 そうなんだ……。


「うん、いや、良かったよ、また会えるなんて」


「サーリャの気配を読み取り、馳せ参じた次第です」


 サーリャもそうだけど、転生したわたしを見抜けるんだ。


 ダンジョンマスターにも見抜かれたし、レベルの高そうな人と会うときは気をつけないとな。


「その姿はどうしたの?」


「七年前、あの、にっくき男と戦いましたが、不甲斐なく破れ、この身体に転位した次第です」


 転位。


 転生とは違い、生まれてくるわけではない。


 多くの場合は、死産する胎児の魂が天に召された直後、身体をもらう秘術だ。


 受け継げる能力やスキルなども大幅に制限を受ける。


 トレイシーの場合、記憶も無かったように、本当に最後の最後に使う秘術だ。


「これからは、マスターのおそばにおります」


 いやいや、おかしいと思われるでしょ。


「ダメダメ、お家の人が心配するでしょう?」


「この身体のことですか? ご心配なら家族丸ごと存在を抹消……」


「ダメダメダメ! 今まで通り過ごして!」


 トレイシーは焦ったように身振り手振りで、わたしにアピールする。


「し、しかしそれでは、記憶を取り戻した意味が……」


 まぁ、そうだよね。


 今のダンジョンマスターを倒すために必要な人材だし、また、わたしに仕えてくれるなんてありがたい。


「じゃあ、賢者の学院を卒業してきて」


「それは簡単ですが……」


「それで、冒険者として働きたいって親御さんを説得してきて、変な魔法使ったらダメだからね?」


「冒険者になり、マスターのおそばで働くのですね、承知しました」


 ホントかなぁ、ホントにわかってるかなぁ……。


「今日明日にでも、賢者の学院を卒業して参ります」


「え? 今日?」


 そんなに早く卒業できるものなの?


 あんまり細かいことを口にしたくないけど……。


「取り急ぎ、お困りのことはございませんか?」


「うーん、色々困っているんだけど、天上の歌関係が困ってるかな?」


「天上の歌というと、冒険者ギルドの?」


「そう、あそこがこの街に支店を出して他のギルドを潰そうとしているんだよ」


「ほうほう」


「それで、この街の支部長がダンジョンマスターの座を狙っているんだけど……」


「なんですと!」


 わたしは、その辺のこととか、昨日のオリーブのこととかを掻い摘んで話した。


 トレイシーは、うんうんと頷きながらわたしの話を聞く。


「セヴェリーネの街と同じ事をやろうとしているのですかね」


「くわしくはわからないんだけど……」


「我の知識ですと、天上の歌は、支部ごとの支部長に権限が委ねられており、特色が出るそうです」


 すごいな、そんなこと知ってるんだ。


 というか、これは多分、セレシュちゃんの知識だな。


 大好きなお兄ちゃんが冒険者ギルドで働いているから、調べたんだろう。


「天上の歌だから良いとか悪いとか、考えが同じなどはないようです」


「そうか、そうだよね」


 どうしてもセヴェリーネの街と結びつけてしまうけれど、アインザックさんはダンジョンマスターになりたいという目的が一番だろう。


 父親である国王の依頼の部分もあるから、何とも言えないけど。


「一番簡単な方法として、この街の支部長をやってしまえば良いんですよ」


「やってしまうって、それも……まぁ、最悪、最悪の話ね?」


 どうしても、どうにもならなかったらやるしかないのかも知れない。


 本当は、実力行使なんてしたくないけど……。


「マスターがお手を汚すことはありません、全て偶然の上でその不遜な考えを抱く支部長を抹殺して見せましょう」


「ま、待って、どうするかまだ考えてないか……」


「明日までに賢者の学院の卒業と、支部長の偶然の抹殺、こなして参ります、サーリャに後れを取ったせめてもの償いとさせてください。それでは」


 トレイシーが部屋を出て行く。


 ああ、あああああぁぁぁ。


 せっかちな悪い部分が出てる!


 実力はあるのに、いまいちサーリャに勝てないところが出てる!


 ギルドの一階の方から、じゃあまた来るね、お兄ちゃんという無邪気な声が聞こえてきた。


 ちゃんと、セレシュちゃんを演じるつもりがあることだけは救いだった。



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