第五十二話 二人組みのパーティー
今日は、デイジーの初冒険の日だった。
デイジーとは、フェンリルを従えているテイマーの子だ。
どうしてフェンリルをテイムしているのかというと、わたしの鑑定が効かない凄い人から譲ってもらったからだ。
そのデイジーも訓練を終え、今日から独り立ち。
冒険者としての一歩を踏み出す日となっていた。
「本当にふたりでいいの?」
わたしは心配してそう聞く。
デイジーは、神官の女の子とふたりパーティーを選んだ。
「はい、デスタが心を許してくれたのはオリーブだけだったので」
デスタとは、フェンリルの名前だ。
フェンリルと言っても、まだ子供だから油断は出来ない。
「仕方ないから、私が付いていってあげますわ」
ツンとした仕草で神官の子、オリーブが横を向く。
このオリーブという神官の子も、ちょっと癖のある子だった。
名家の出身らしいんだけど、人に打ち解けずに神殿でも浮いていたらしい。
見かねた神殿のえらい人が推薦して、冒険者の方に来てくれたという経緯があった。
「ふたりなんだから、良く相談してね、デスタは強いけど人とのトラブルを解決はしてくれないから」
「うん、わかってる」
「大丈夫ですわよ、私にお任せあれ」
デイジーは冷静かな?
気負いもないし自然体だ。
一方で、オリーブはちょっと余裕過ぎるかも知れない。
初めての冒険なのに自信満々だ。
ちょっと危ないかも……。
フェンリルのデスタが打ち解けるんだから、オリーブも悪い子ではないんだろうけど……。
うーん、心配だなぁ。
「スカウトが足りてナイッスね、あっしが行きましょうか?」
「アイヴォリー」
もう引率付きの冒険は終わって、今日から独り立ちなんだけど、その方がいいかも知れない。
デスタは無関心だから、相性は大丈夫だろう。
アイヴォリーで良いかも知れない。
「じゃあ、今日の冒険はアイヴォリーも一緒でどう?」
「ボクは構わないけど……」
「ふたりで大丈夫ですわ」
折角の一人前デビューだから、ふたりで行きたかったのかも知れないけど、わたし判断でまだ危ないと感じた。
もう何回か、引率付きでも良さそうだ。
「まぁ、そう言わずにあっしも連れてってくださいよ」
「うん、そう言うなら……」
「仕方が無いですわね」
良かった、折れてくれた。
内心、ちょっと不安だったりするんだろうか?
オリーブは、そんな感じがしないけど……。
「じゃあ、今日はどこに行くの?」
「相談したんですけど、初めてなので果樹園の森で採取と食べられそうなモンスターを狩ってこようかと」
「いいっすね、それで行きましょう」
さすがに依頼をこなすのは難しい。
初冒険の二人組みに、任せられる依頼がそもそも無いんだけど。
「じゃあ、気をつけてね」
「はい、行ってきます」
3人はマジックバックを背負って出かけて行った。
「さて……」
わたしは、いつも通りの業務をこなし、暇になる頃合いでアイヴォリーに同調する。
そろそろダンジョンに着いていても良さそうだけど……。
すると、3人は、森の中を歩いていた。
果樹園の森ダンジョンに入っているようだ。
果樹園の森ダンジョンは地下にあるんだけど、木が生えていて、日光の当たる穴が天井にいくつも空いている。
独自の生態系を築いていて、木々には果実が成り、その果実を求めて小動物が住み、その小動物を狙ってモンスターが徘徊するという感じだ。
「これは何ですの?」
オリーブが白い膜のような物を指さす。
人工物のように見えて、不思議に思ったんだろう。
「これは、マークスパイダーの罠ッスね」
「罠? モンスターが?」
オリーブが白い膜をつんつんとしている。
「あら、粘ついて取れない……あら?」
指先に膜が粘ついて取れないようだ。
早速、アイヴォリーの講義が始まった。
「マークスパイダーはクモッス、だから罠をはるんっすよ」
「でも、クモがいませんわよ?」
「上に糸が伸びているから、上にいるんじゃないかなぁ?」
「そうっす、今、オリーブが罠を突いたから、向こうは気が付いているッスよ」
「ええっ!?」
慌ててオリーブが指先の膜を取ろうとする。
力任せに取れば、もちろんそれがマークスパイダーに伝わるんだけど……。
「大丈夫、デスタは強いから」
「ワオン!」
デスタが安心させるように吠える。
「デスタはいい子ですわね」
「来たッスよ」
大きな木の枝から、大きなクモが姿を見せる。
その異様な大きさに、ふたりは驚いていた。
「キャーッ! クモーっ!」
「クモって言ったじゃないッスか」
ふたりの初戦闘が始まろうとしていた。