第五十話 去る者と残る者
「俺たちは、他の街に移ることにしたよ」
「そうですか、残念です」
赤い風から移ってきたパーティーが、他の街に移ると言ってきた。
紹介状を書いて、他の街でギルドに提出できるようにしないといけない。
「ゼヴェリーネの街では、冒険者はいなくなった。天上の歌に移籍するのは得策じゃないしな」
「それには事情があったらしいぜ?」
「もう、この話は終わりって言ったでしょ?」
「わかったよ」
まだ話がまとまっていないけど、クエストがないギルドに見切りを付けた形だろう。
銀の月にこだわる理由はない。
冷静に考えれば、他の街に移るのが早いか遅いかの違いなのかも知れなかった。
「では、他の街でもお元気で」
「ああ、すまないな、銀の月の飯の味とコットンのことは忘れないよ」
そう言って、ひとつのパーティーが銀の月から出て行った。
「どうせなら、クエストがでるところで働いた方がいいもんなー」
「それなら、一日でも早い方がいいって言いたいんだろ?」
まだ話し合っているパーティーは、わたし達の話を聞いてそんなことを言っている。
そう考えるパーティーが自然だろう。
でも、この辺の出身じゃないパーティーは身軽だけど、近くの村から来たとか、この街に住んでるという人達は悩ましいようだ。
「嬢ちゃん、マジックバックみっつ貸してくれ」
「え? みっつですか?」
今、クエストはないし、そんなにマジックバッグを使うような何かは無いはずだった。
荷物を運ぶ依頼でも受けたんだろうか?
「ああ、黄金都市がえらい儲かるらしくてな、持って帰る物が大変だとよ」
黄金都市!?
悪魔が出没するところに行っているの?
まぁ、道があるから行き来の便は良いし、領主様のコントロールで色々な物が取れるとは思うけど……。
悪魔と戦えるなら、いいかもしれない。
そしてその情報は瞬く間に広まり、ギルドを去る人よりも残る人を多くさせる結果になった。
「これなら、クエストが無くても大もうけだな!」
「いやぁ、領主様々だぜ!」
いつの間にか、酒場は、そんなことを話している冒険者でいっぱいだ。
余程儲かるのか、財布の紐が緩んで良いお酒を頼む冒険者が後を立たない。
「最近悪魔とばっかり戦ってるよぉ」
「仕方が無いと慰めます」
黄金都市には悪魔が出没するので、ママやガブリーのパーティーも黄金都市に出かけていた。
また、貴族階級の大物を倒せば良いアイテムが手に入るかも知れない。
それに、黄金都市で悪魔が呼ばれる原因を掴めれば最善だった。
「しかし、黄金都市は色々なモンが採れるな」
「黄金はあんまりないけどな」
「結局金貨になるんだから、全部黄金よぉ」
「ははは、ちげえねえ!」
黄金都市で採れる物は、触れ込み通り様々な物だった。
食糧となる物、野菜や獣の肉、病気を治す果実、繊維の塊のような花、鉄や銅などの金属、もちろんお宝的なマジックアイテムなど様々だ。
どんどん沸いて出て来るようなので、枯渇するということもない。
赤い風の冒険者も通っているようで、天上の歌のことが無ければ順風満帆だっただろう。
ただ、悪魔が出没するということで、危険度は高かった。
初めに出て来た貴族階級の悪魔などは今のところ目撃されていないけど、油断は出来ない。
領主様が、ダンジョンをコントロールするアイテムで魔物を出さなくしたところに、ダンジョンマスターが悪魔を出没させているんだろう。
その見方が大勢を占めていた。
ダンジョンマスターとしては、この街のことだけに構ってはいられないだろうし、今のところこんな対応なのか。
それにしても、天上の歌のアインザックさん、ダンジョンマスターになりたいらしい。
とにかく要注意人物だった。