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第五話 冒険者ルルーナ


 ルルーナが銀の月ギルドに加入してから一週間が経った。


 わたしは、作り出したモンスターと同調することで、視覚や聴覚を共有することが出来る。


 あくまで、見たり聞いたり出来るだけなんだけど、ギルドは仕事が無くて暇だから割とルルーナを見ていた。


「さて、今頃なにしてるかな……」


 朝、ママとサーリャとルルーナは3人で出かけて行った。


 低レベルのルルーナを育てるために、初心者用の入口からダンジョンに入っている。


 もう一週間経つので、ルルーナもちょっとは強くなったけど。


「単刀直入に言う、そっちのギルドは脱退して赤い風に来い」


「えっ!?」


 わたしはルルーナの視覚に慌てて同調していく。


 ダンジョンの入口、その手前辺りで3人は他の冒険者5人に絡まれていた。


「あわ、あわわわわわっ」


 ママがアワアワしている。


 モンスターとの戦闘になると強いのに、人間相手になると実力を出せなくなってしまう。


 でも、サーリャもルルーナも割と毅然としていた。


 サーリャは当たり前としても、ルルーナは肝が据わっている。


 さすがは勇者の卵なのかな。


「お断りします、ルルーナ様も良いですね?」


「もちろんですよ、僕もお断りします」


「チッ……」


 5人組の男たちのリーダーだろうか、15、16歳くらいの少年が舌打ちをしていた。


 歳や格好からして、そんなに上級者ではないだろう。


 これはあれかな、早速男が釣れたのかな?


「赤い風には100人近くの冒険者がいる、それがどういうことかわかるだろ?」


「いえ、わかりません」


 サーリャが素っ気なく言い返す。


「あんたはもういいよ、レベルも高そうだし、どこででも1人でやっていけるだろ」


 となると、この男たちの狙いはルルーナで確定か。


「でも、ルルーナは初心者だ、中級者くらいになるまでは人も設備も整った赤い風で鍛えた方がいい」


「心配してくれてるの? でも、ホントにそういうの要らないです」


 結構にべもない。


 半分口説いているようなものだから、警戒してしまうんだろう。


「銀の月の何がそんなに良いんだ? 不便なだけじゃないか」


「銀の月冒険者ギルドには、一宿一飯の恩義があります、それは僕にとって大事なことなんです」


「飯くらいいつでも俺が奢ってやるよ、それくらいの稼ぎはある」


 ちょっと自慢そうに男の子は言った。


 このちょっと痛い感じは、見てて辛いものがある。


「あ、あの、どうしてそこまで、ルルーナちゃんを誘うの? おばさんにも聞かせてね?」


 ママは、わたしを17歳で産んだので今は24歳だ。


 おばさんというには、まだ若い。


「ああ、ルルーナ様が好きなのですか、納得しました」


「えっ!?」


 サーリャの言葉にママは驚いて、ルルーナは困った顔をする。


「そ、そんなはずねえだろ! こんなちんちくりん!」


 冒険者としてもまだ未熟だろうけれども、恋愛に関しても未熟なようだ。


 もしかしたら田舎の出で、こんなかわいい子を見たのは初めてなのかも知れない。


「とにかく断るよ、もういいでしょ?」


「兄貴、もう力尽くで言うこと聞かせた方が早いですぜ」


 後ろで控えていた4人が物々しい雰囲気になる。


 ママが対人戦を苦手にしていることは有名だ。


 サーリャは数で押せると判断したか。


「最低ですね、か弱い女子を力尽くとは」


「ま、待て、オマエら」


 リーダーが慌てて止めに入る。


 サーリャを恐れているのか、衛兵に捕まるのが怖いのか。


「では、行きましょうか」


「あ、あのね? もう、こんなことしちゃ駄目よ?」


「べー、だ」


 3人は思い思いにダンジョンに入っていく。


「いいんですか? 兄貴」


「考えがある」


 ルルーナに聞こえたのはそこまでだった。




 ルルーナのモンスターとの戦いを見ていたけれども、なんというかセンスの固まりだった。


 さすがは成長率SSSだけのことはある。


 レベル相応のモンスターを2ランクくらい上げて、丁度という感じだ。


 これは、あっという間にレベルが上がりそうだった。


 ベテラン2人の動きもすぐに理解して取り込んでいく。


 これなら、ソロでやれるのも時間の問題だと思えた。




「じゃあ、ちょっと市場の方に寄ってくるね」


 今日のダンジョン探索が終わり、街に戻ってきた3人はお腹を空かせて歩いていた。


「またおやつですか、仕方が無いですね」


「あの、食べる子は良く育つわ、でも、おデブにならないように、甘い物とか油なものとかは控えてね?」


「うん、すぐに帰るから!」


 ルルーナは、夕食だけじゃ足りないので自分用の食べ物を買い込んでくる。


 今は家族みたいにみんなで食べているから、1人でいっぱい食べるのは出来ないんだろう。


 ギルドが大きくなって、酒場が始まったらそこで食べられるんだけど、ちょっと我慢してね。


「よう、冒険者のお嬢ちゃんもどうだい?」


「わー、いいんですか?」


 視覚を同調させると、市場の外れで炊き出しが行われているようだった。


 市場で余った食材とかは、こうしてみんなで食べる習慣がこの街にはある。


 どこも食糧が足りないので、みんなで持ち合って助け合う精神だ。


「いただきまーす」


 ルルーナが美味しそうに汁物を食べていた。


 色々な食材のごった煮という感じだけど、こういうのも美味しい。


 はらぺこのルルーナは、あっという間に完食してしまった。


「ようルルーナ、今朝ぶりだな」


 そこに、朝方絡んできた男たちが現れた。


 なんか嫌な感じだ。


「なんですか? もう勧誘は断ったよね?」


「この炊き出しは赤い風主催のものだ、これで一食の恩義が出来たな」


 ルルーナの感情が高ぶっていくのがわかる。


 怒っているんだ。


「お金を払います!」


「受け取らない、炊き出しは善意でやっていることだからな」


「むぅ!」


「食べ物の恩義は大事なんだろう? それならこっちのギルドにも顔を出してくれよ」


「嫌っ! こんな卑怯な手を使ってくる人たちとは手を組めない!」


 男たちがニヤッと笑う。


 そう言ってくるのがわかっていたみたいに。


「じゃあ一騎討ちをしよう、お前が勝てばもうちょっかいは出さない」


 そう来たか。


 ルルーナを初心者と見て侮っているのと、強気な態度だから断らないだろうという読みだ。


「ホントですね?」


「ああ本当だ」


「だ、大丈夫なんですよね?」


 男たちにも慎重なのがいるらしく、小声で話し合っている。


「大丈夫だよ、鑑定のスクロールで見たがアイツのレベルはたったの5だ」


「なるほど、ほとんど一般人ですね」


 リーダーが受けて立つらしく、鞘から剣を抜く。


 ルルーナもグランクレストを抜き放った。


 ランクSSSの宝剣を見て、男たちが少し怯む。


 だけど、リーダーは勝てる自信があるらしく落ち着いていた。


「では、勝負始め!」


「俺のスキルは影繰術、オマエの影を縛ることでオマエ自身を……」


 リーダーの口上を全く聞かずに、ルルーナはその剣を高く弾き飛ばしていた。


 一秒もなかっただろう。


 でも、力強く飛ばされた剣は、建物の壁に刺さって落ちてこない。


「そ、そんな馬鹿な……」


 グランクレストは、過去未来の一番強い自分の攻撃力を借りてこられる武器だ。


 勇者となったルルーナの攻撃力なら、当然の結果だった。


 それに成長率SSSは伊達じゃない。


 レベル5で、能力値がほとんどCまで上がっている。


「じゃあ、約束だよ」


 ルルーナは、つまらないものを切ったと言わんばかりにため息を吐き、きびすを返してその場を立ち去った。


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