第四十七話 インテリ眼鏡さん
銀の月は、今や100名以上が所属しているギルドになった。
半年前まで、ママひとりしか冒険者がいなかったことを考えると、ずいぶん変わったと言える。
でも、ベテランは半分くらいで、訓練生から卒業した者や、噂を聞いてやってきた近隣の若者を鍛えた、新人冒険者が半分だ。
それでも、街には貢献できていると思う。
冒険者が5人1パーティーいれば、一日で食糧を20人分は狩ってこられる。
グレイトボアとかジャイアントトードとか、可食部が多いモンスターを狙えば、もっと稼げるだろう。
孤児院の子が摘んでくる薬草や果実だって、凄く貢献できているはずだ。
新人でも、数が増える意味があった。
まぁ、それでも、十年前のピークの頃からみればまだ冒険者の数は少ない。
銀の月だけで、部屋も施設も余っている。
「さて……!」
今日は、訓練を卒業した4人の若者を、ママとガブリーのパーティーで実戦に投入する日だった。
わたしが、若者という言葉を使うのは何かおかしい感じもするけど。
「それじゃあ、この実戦が終わったら、4人でパーティーを組むんですね?」
「お、おう、後から妹が卒業するから、5人パーティーになると思う」
この街で集められた少年少女達だ。
まだ12歳くらいだから、無理な冒険は出来ない。
「わかりました、それでは、戦士のロイド君と魔法使いのマーティー君はママのパーティーに」
「おう」
「は、はい」
ちょっと緊張しているだろうか。
でも、冒険の初体験をベテランとできるのは意味があるはずだ。
「神官のコニーさんと、スカウトのバグシー君はガブリーのパーティーに」
「わ、わかりました」
「よろしくお願いします」
戦士と魔法使いの心得は、ママでもルルーナでもエリシャでもサーリャでも、学べるだろう。
神官はフランセスから、スカウトは生体機械のアイヴォリーから学べるだろう。
「がんばってね」
ママが優しくロイド君の頭を撫でる。
「だ、大丈夫だよ」
でも、照れているのか、ロイド君はその手を払う。
ママは、くすっと笑うと嫌がることをやめた。
「任せるッスよ、スカウトのことは何でも教えるッス」
「お願いします!」
スカウトのバグジー君は、割と落ち着いているように見えた。
リーダーはロイド君で、参謀がバグジー君かな?
ちゃんとパーティーになっている感じがする。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
「行って参りまス、マスター」
「ガブリーも気をつけてね」
2チームとも、今日は簡単なクエストだ。
今日はダンジョン、明日は依頼をこなす予定だ。
なるべく新人にやってもらう形だけど、ママもガブリーも慣れたものだろう。
もう、こうやって送り出すのは何パーティー目になるのか。
少し過保護だとベテランさんに言われることもあるけれど、少しでも生き残る確率を上げることが出来るなら、やる意味はあった。
まぁ、こうやってギルドで育てて送り出すという形にしているなら、やった方がいいしね。
「コットン、今度、俺たちにも新人を任せてくれないか?」
みんなが出ていくと、わたしに話掛けてくる人がいた。
「フラニールさん?」
フラニールさんは、元竜の髭ギルドの跡取りだったんだけど、紆余曲折あって今は銀の月にいる。
人格的なところは全く問題ない。
経験も豊富で人脈もある。
「お任せできるならありがたいです」
「ああ、任せてくれ」
肝心の腕は、普通のベテランさんというところだけど、新人の冒険者が行くダンジョンならば無問題だろう。
でも、ギルド内にも、派閥的なものが少しあるみたいなので、新人が欲しいんだろうか?
まぁ、なるべく政治の道具にはしないで欲しいけど……。
「失礼するザマス!」
「うえっ」
そこにインテリ眼鏡さんがやってきた。
いつ聞いても甲高くて耳障りな声だ。
「ギルドマスターはどこザマスか!」
「えと」
「なんだい、騒々しいね!」
おばあちゃんが出て来た。
インテリ眼鏡さんは、おばあちゃんに任せるに限る。
「組合に通達があったザマス! ギルドに国からの補助金がでなくなるそうザマスよ! なにしたんざますか!」
「早速きたのかい」
間違いない、天上の歌の仕業だろう。
領主様を動かせるくらいの力はあると言うことか。
「別に何もしてやしないよ、ただ、天上の歌がこの街に支店を出すらしいさね」
「な、なんザマスとぉぉぉっ!」
「せいぜい、潰れないように頑張るんだね」
うちも大変なんだけど、おばあちゃんは楽しそうにインテリ眼さんをからかった。
「こ、こ、これは大変ザマス! ゼヴェリーネの街の二の舞ザマスよ!」
「慌てるんじゃないよ、この街にはたくさんのダンジョンがある、冒険者がどこのギルドを選ぶかは自由じゃないか」
「国から補助金が出ないギルドと、この国最高のギルドじゃ比べものにならないザマス!」
「冒険者だって馬鹿じゃないんだ、冷静に考えるだろうさ、ゼヴェリーネの街には冒険者がいなくなった、それを知っていればね」
「むむむ、とにかく、組合から領主様に抗議ザマス! 天上の歌を優遇するのは差別ザマス!」
領主様が動いたと言うことは、多分国王様から何か指示があったんじゃないだろうか。
インテリ眼鏡さんがさわいでも、どうにもならないだろう。
「失礼するザマス!」
インテリ眼鏡さんは、来たときと同じように、騒々しく扉を閉めて帰って行った。