第四十六話 アインザックの狙い
「つきましては、先日の騒動で悪魔のボスが落としたという剣を、譲って頂けないでしょうか」
「え?」
天上の歌ギルドのアインザックさんは、そんなことを言った。
ディーンエヴェンダーのことだ。
黄金都市の安定と関係があるのかな。
悪魔のボスのアイテムは関係ないと思うけど……。
「さてね、もうどこかへやっちまったよ」
「誰に売りましたか?」
「さてね、旅の行商に売ったから、今頃海を越えてるんじゃないかい?」
おばあちゃんは明らかに嘘を言っているんだけど、アインザックさんは、にこやかな笑顔をつづけていた。
自分たちが歓迎されていないと知っているんだ。
「まさか、行商人に売るなんて、そんなはずはないと確信しておりますよ」
そこに、スキンへッドの方のラドクリフさんが話し掛けてくる。
「半年前にダンジョンマスターが現れた際、その部下を捕らえたと聞きましたが、その方は今どこに?」
「ひっ」
サナさんが変な声を出すけれども、2人はスルーしている。
まぁ、ダンジョンマスターの部下には見えないよね。
「さてね、さっさと逃げちまったから、今どこにいるのか何てわからないね、ダンジョンマスターにでも聞いてみることさ」
全く協力するつもりが無いおばあちゃんを見て、ふたりは目を合わせた。
そして、軽く頷く。
「我々は、この街の冒険者ギルドの運営を邪魔するつもりはありません」
「はん、どうやったって邪魔になるに決まってるだろうに」
「国王陛下、もしくは領主様以外の依頼は受け付けません、ギルド員の勧誘も行いません」
「お前達の手口は、セヴェリーネの街で知ってるよ、街の冒険者ギルドを全て潰して、国王陛下の目的を遂行したんだってね?」
そう、おばあちゃんが天上の歌に非協力的なのは、それがあったからだと思った。
セヴェリーネの街で何があったのかはわからないけど、冒険者はいなくなり、モンスターの数も激減したと聞いている。
セヴェリーネも、この街と同じでダンジョンに恵まれた街だったんだけど、その恩恵は一切無くなり、リスクだけを背負っている状態だという。
「あれは、仕方が無かったんですよ、この街でそんなことは起きません」
「そんな言葉を信じるほど耄碌しちゃいないよ」
そう、この事実は国中の冒険者達に衝撃を与え、国で一番の冒険者ギルドにもかかわらず、天上の歌は冒険者達から嫌われていた。
このふたりはどんな人なんだろう?
わたしは鑑定をする。
職業は……詐欺師!? 冒険者ですらないの!? でも、装備品は一級だ。
レベルが14だけど、全身マジックアイテムを装備している。
きっと程ほどに戦えるだろう。
もうひとりの人は、神官戦士でレベルが63、まだ二十代だと思うけど結構頑張っている強さだ。
男神魔法を使う人で、全身マジックアイテム。
神様はアルクメーネ、土着の土地神様を信仰してる。
どんな神様なのかは、わからない。
秩序に属する神様だけでも凄く数がいる。
有名どころでもなければ、余程のマニア以外はわからないだろう。
「おばあちゃん、この人は信用できないよ」
「そうだろうね、言われるまでもないさ」
わたしの鑑定以上に、おばあちゃんの人を見る目は肥えているだろう。
初めは好印象だったわたしと違って、おばあちゃんは初めからこのふたりに冷たかった。
亀の甲より年の功。
人を見る目を鍛えなくちゃ。
「おや、鑑定かな? 鑑定阻害のマジックアイテムを着けてるんだけどな」
「ふん、否定しないのかい?」
すると、アインザックさんの表情が一変する。
穏和な表情から、一気に冷酷な表情へと。
「面倒なので、したくなかったんですが、銀の月と赤い風には潰れてもらうしかないかなぁ」
「潰してどうするんですか?」
思わずわたしは聞いてしまう。
邪魔かも知れないけど、黄金都市の調査にはあまり関係ないだろう。
「僕は、冒険者が嫌いなんですよ、金にがめつくて、粗暴で、モンスターの命をなんとも思ってない」
モンスターの命? 変な人だな。
自分も一応冒険者だろうに、冒険者が嫌いでモンスターが好きなのか。
「言うつもりはなかったんですが、この機会にダンジョンマスターも始末しようかと思いましてね」
「えっ!?」
「はは、勝算もなく、こんなことは言いませんよ?」
とんでもないことをさらっと言った。
ダンジョンマスターを始末するって、どうやって?
「とにかく、大人しく従うならそれで良し、反抗するようなら潰してしまおうというのが僕の考えです」
「さてね、ほんの半年前までこのギルドの冒険者はひとりだけだったんだ、どうやって潰すつもりなのかお手並み拝見さね」
「もちろん調査済みですよ、でも、そんなの簡単ですよね?」
わたしのお腹の辺りがカッと熱くなる。
「ママに手を出したら許さないから」
私は怒りを込めて、アインザックを見る。
ちょっとたじろいだようにするアインザックだったけど、すぐに表情を変えてきた。
「コットンさんは、是非、天上の歌に招待したいんですよ、ベガラヤ様から言いつかっております」
「断ります」
「この辺で良いでしょう」
そこで、ラドクリフがそう言った。
冷静なのはラドクリフのようだ。
「ふむ、まぁ、ご挨拶はこのくらいでいいですかね、お仕事のお邪魔をしました、それでは、また」
ふたりがギルドから出て行く。
物を投げつけてやりたい気分だ。
「コットン、塩撒いときな!」
「わかった!」
それにしても、なんだか、大変なことになりそうだった。