第四十五話 やって来る天上の歌
黄金都市の開通式から一週間が経った。
今のところ道は封鎖されていて、その後の音沙汰もない。
街の人はガッカリしているか、やっぱりという諦めか。
開通式に集まっていた若い人達はどうしているだろう。
地道に仕事をしているか、冒険者になる決心でもしたか。
黄金都市は、ダンジョンマスターが造ったダンジョンではなく、元からあるダンジョンだった。
だから、領主様はコントロールする装置を黄金都市にだけ使ったんだろうけど、結局邪魔されてしまった。
まぁ、ダンジョンマスターが邪魔したって決まったわけじゃないけど、その可能性が高そうだ。
それとも、領主様の装置が誤作動したとか?
いやいや、それなら今頃再開通してるだろう。
街のえらい人は、頭を悩ませている頃なんじゃないだろうか。
ハダン君とモルソー君と三人で朝の支度を終えると、冒険者を迎える準備をする。
朝ご飯とかは、厨房の人がやってくれるから、わたし達はクエストの張り出しや確認、備品の補充とか諸々だ。
「おはようございまーす」
「おはようございます」
そして、朝の忙しい時間が終わる頃、孤児院の子がやってきた。
みんな眼がキラキラしている。
働いてお金を稼ぐことに充実感を覚えている眼だ。
薬草を採取して半年になるけれど、ちゃんと食事を採って大きくなった子は、冒険者として訓練を受けているところだった。
もうそろそろ、訓練を卒業という子も出て来るだろう。
「よーし、ガキども集まったな、準備の出来てない奴はいるか?」
エレンが孤児院の子をまとめてくれる。
その知識と経験を子供たちに教えてくれるので、孤児院の子達は、もう立派な採取者になっていた。
「大丈夫でーす」
「じゃあ、サナは薬草採取のほう頼んだぞ」
「任せて下さい」
ダンジョンマスターに雇われていたサナさんは、もうすっかり薬草採取の人になっていた。
剣聖で、滅茶苦茶強いのに冒険には興味がないらしい。
たまに、訓練に駆り出されて裏庭で剣術を教えているけれども、収入は薬草採取とそれくらいだ。
でも、浪費癖がないのか、それで十分なようだった。
まぁ、家出してたくらいだから家には帰りたくないだろうし、これはこれで充実しているんだろう。
「もし、銀の月ギルドの責任者を出して欲しい」
孤児院の子が出かける前に、2人組みの冒険者がやってきた。
高価な剣士装備のイケメンとスキンヘッドの2人組みだ。
装備だけじゃなく、レベルも高いだろう。
物腰も柔らかくて好感が持てる。
「どんな御用事でしょうか?」
剣士装備の方がわたしを見て感心したような顔をする。
これは、幼いと見られているパターンかな。
荒くれ者の冒険者だと大人を出せとか言われるけど、心が大人の人だと、こういう反応になる。
「君がコットンさんですか、7歳で受付嬢になって、もう少しで8歳とか」
「え?」
なんでそんなことを知ってるんだろう?
銀の月のことを調査済みなの?
ちょっと警戒してしまう。
「怪しい者ではないんです、責任者の方、クロースさんと話をさせてくれませんか?」
「ですから、どんな御用事かと……」
「なんだい、あたしにゃ用はないよ」
「おばあちゃん」
話が聞こえていたのか、おばあちゃんが奥から出て来る。
「貴女がクロースさんですか? 私は、王都の冒険者ギルド、天上の歌に在籍しているアインザックという者です」
「同じく、ラドクリフと申します」
天上の歌!
このザカール国の周囲では最大の規模を誇る冒険者ギルドだ。
王都はもちろん、色々な街や隣国の街にまでその勢力を伸ばしているらしい。
特徴は、ギルド員がみんな着ている白いマント。
装備はそれぞれなんだけど、みんな白いマントを着ていた。
でも、このマントが優秀で、防寒、防刃、防魔法みたいに、様々な耐性を持つマジックアイテムだという。
「はん、話ってのは?」
おばあちゃんがキセルを吹かす。
あまり歓迎していない感じだ。
「この街、アンデマンドの黄金都市に関して国王陛下から依頼がありました」
「国王様から? 一体なんだい」
天上の歌くらいになると、国王様から依頼が来るらしい。
うちに、領主様から依頼があるような感じか。
「黄金都市が安定的に収入を得られるようになるまで、この街に天上の歌の支店を出すというものです」
え? 天上の歌がこの街に来るの!?
「はん、国王様のお墨付きかい、商売あがったりだね」
銀の月と赤い風で、この街の冒険者は収まっている。
そこに天上の歌が加わったら……。
大手の介入で、街の冒険者達の暮らしがどうなってしまうのか心配しながら、話を聞いていった。