第四十四話 ディーンエヴェンダー
今日のところは、黄金都市への入口が閉鎖された。
兵士がたくさんで守っている。
「また悪魔が出るかも知れない! 気を抜くなよ!」
兵士長か、部下にハッパをかけていた。
また貴族階級が現れたらどうなんだろう。
「騎士様も援軍に来るってよ」
「街に入口を繋げちまって大丈夫なのかねぇ」
「そこはそれ、仕事が増えるかも知れないぜ」
「まぁ、それもいいかもな」
冒険者達は、軽口を叩きながら自分の居場所に帰っていく。
街の人は、入口に近づかないように制限されていた。
わたし達も銀の月に帰る。
「どれ、大変だったみたいだね」
「おばあちゃん!」
もう情報が入っているのか、おおよそのことはわかっているみたいだった。
続々とギルドに冒険者が帰ってくる。
「ギルドマスター、悪魔のボスが落とした剣です」
サーリャが拾ってきた剣を見せる。
それを机の上に置くと、おばあちゃんは眼鏡を掛けて調べ始めた。
「どれどれ……」
おばあちゃんのアイテム鑑定は、かなりレベルが高そうだけど一瞬で済むものではないみたいだ。
入念に、色々見ている。
「ディーンエヴェンダー……聞いた事無いね」
おばあちゃんが眼鏡を外す。
鑑定出来なかったみたいだ。
「コットン、やってみな」
「うん!」
わたしは、調べる振りをしながら鑑定をする。
はー、これは……。
「これ、瞬間移動できる剣みたい、自分も他人も出来るんだと思うよ」
「ほう、それは凄いね、使いこなせればとんでもない一品だ」
「やってみるね」
わたしでは、重すぎて剣が持てないから机の上で柄を握って、隣の机に剣ごと瞬間移動する。
「おおおっ……」
見ていたみんなが、感心したような声を出した。
実際、接近戦をするとして、間合いが全部自分のものになるのは強い気がする。
「じゃあ、サーリャ、移動させるね」
「マスター、どうぞ」
わたしは、剣を握ってサーリャを移動させた。
見事に、サーリャはわたしの隣まで瞬間移動する。
「おおっ、すごい、いくらするんだ?」
「これはちょっと手が出ねえ値段だろうぜ」
「おいおい、悪魔のボスが持ってた剣だぞ」
冒険者達は興味があるみたいだけど、不気味さも感じているようだ。
縁起が悪いとか、そんな感じだろう。
わたしは、おばあちゃんに目配せする。
おばあちゃんは、目の力でうんと頷いた。
「さあ、みんな大変だったね、今日のところは休んでおくれ」
冒険者が散っていく。
「やれやれ、とんだ災難だったぜ」
「やっぱり、ダンジョンは冒険者のものだってことよ」
「いいじゃねえか、仕事はすぐに終わって、依頼金も出るんだ」
周りには、いつもの見知った顔だけが残った。
おばあちゃんは、いいだろうという感じで頷く。
「なんだい?」
「この剣は、瞬間移動するだけじゃなくて、空間と空間を繋げることが出来るみたい」
「えっ、わかんない、どういうこと?」
「ルルーナはお馬鹿ですわねぇ」
「うっさい」
「瞬間移動しているみたいに見えるけど、実際は、空間を繋げているということ」
「つまり?」
「隣町の空間とギルドの空間を繋げれば、隣町まで一歩でいけるってことだよ」
「えええっ、それって凄くない!?」
「す、凄いけど……色々悪用できちゃうと思う……」
エリシャは興味津々だ。
錬金術士的に惹かれるものがあるのかな?
「これはX指定アイテムね」
ママが断言する。
「そうさね、そうするしかないだろう」
X指定アイテムとは、強力な悪用できるアイテムが発掘された場合、ギルドが保護するというアイテムだ。
鑑定でも拾得者に本当の効果を言わずに、値段だけは適正で買い取る。
その後、国や領主様に買い取ってもらうのが普通だった。
「でも、あれだね、これは領主様に渡しても領主様が困るだけさね」
「うーん、そうだよね、これは利用価値が高すぎると思う……」
パッと思い付くのは軍事利用だ。
行軍を圧倒的に早めることが出来るし、戦術的には、相手の背後に突然現れることも出来る。
もっと簡単に言えば、相手の首都とかに突然軍を送ることだって出来るわけだ。
国の運命を左右するかも知れないアイテムになりかねない。
でも、こんなアイテムが発掘されてしまったら、領主様も国に報告しないわけにはいかないだろう。
その結果、戦争が更に激化するかも知れない。
最近、小康状態に落ち着いてきた戦火を、拡大するだけになりかねなかった。
「隠しておく?」
「これはこうしちまおう」
おばあちゃんが、引き出しから短剣を持ってくる。
なんだろう?
「この短剣は、どんなアイテムでも形を変えられるアイテムさ」
えっ、それもすごい。
詳細にも寄るけど、色々な使い方を妄想してしまう。
「…………」
おばあちゃんは、無言で短剣を剣に突き刺す。
すると、悪魔の持っていた剣がカギの形に変わった。
「へー、面白いねですねぇ」
「元に戻せるのかな?」
「コットンが持っているといい」
「えっ、わたし?」
わたしは鍵を受け取ると、紐を通して首から提げた。
服の下にしまえばわからないだろう。
「それにしても、黄金都市は駄目だったってことかー」
「まぁ、ダンジョンマスターが邪魔したに違いないさね」
そうだよなぁ。
「領主様、どうするのかしら?」
「ダンジョンを昔のようにと言うのは、取りあえず先送りになると考えます」
「領主様にも考えがあるだろうよ」
「ねえねえ、僕達でダンジョンマスターを倒さない?」
「会うことも出来ないだろさね」
「そうだよなー、ちえっ」
ダンジョンマスターが今どこにいるのか、それさえもわからない。
戦う以前の話だった。