第四十話 ダンジョンマスター再び
「ママ、領主様のお話って本当かな?」
ママは、ちょっと困った顔をしていた。
まぁ、そうだよね。
領主様が、こんな大々的に嘘を吐くはず無いけど、ちょっと考えられない話だし。
「ママにはわからないなぁ、ちょっと信じられないけど」
「おばあちゃんなら、わかるかなぁ?」
「おばあちゃんは、黄金都市のことを領主様から聞いていたみたいだからね、どこまで知っているのかはわからないけど」
なんか、今日もギルドで昔なじみが集まるとか言ってた気がする。
おばあちゃんの昔なじみって、すごい人達だったりするのかな?
「私には信じられません、領主様は間違った情報を掴んでいると申告します」
サーリャは否定的なようだ。
それはそうだよね。
ダンジョンをコントロールする。
だって、それは、もはやダンジョンマスターだ。
そんなことが出来るはずない。
でも、黄金都市は元々あった地底王国の都市だ。
どうして滅んでしまったのかはわからないけど、そういうアイテムを所有していた可能性もゼロではないのかも……。
「広場は式典とかやるみたいだけど、コットンには退屈でしょ? 珍しいアイテムでも見に行こ……」
領主様の演説が終わって、群衆が移動しようとした矢先。
サーリャが声を上げた。
「コットン様! あいつです!」
「え?」
サーリャは、領主様が映し出されているマジックアイテムを指さしていた。
演説が終わった領主様の近くに、黒づくめの男がいる。
衛兵が排除しようとすると、それを不思議な力で蹴散らした。
「おい! なにか変だぞ!」
「なんだあれは!?」
周りの人も気が付いたらしい。
領主様は剣を抜いて厳しい顔をしている。
でも、わたしは知っている。
あの黒ずくめの男は……ダンジョンマスターだったわたしを殺した男だ。
つまりは、今のダンジョンマスター。
わたしの仇敵だ。
「チャンスです!」
サーリャは剣を抜くと、群衆を掻き分けて走り出す。
まさか、ここで討ち取るつもりなの?
「サーリャ!」
ママもその後を追って走り出した。
わたしもその後を追う。
「貴様、何者だ?」
領主様の声が、マジックアイテムを通して広場に伝わる。
全体が、ざわざわと騒ぎ始めていた。
「刺客だ! 領主様が危ない!」
「きゃああっ!」
「逃げろっ!」
パニックになりかけている群衆の足下を、わたしは駆けていった。
ママとサーリャは鍛えているので足が速い。
でも、この人がいっぱいの状況なら、わたしでもなんとか追いつけていた。
「領主よ、黄金都市のアイテムを返してもらおうか」
「返す? お前は地底王国の者なのか?」
「違う、俺は全てのダンジョンを統べるダンジョンマスターだ」
「ダンジョンマスターだと!」
「ダンジョンの宝は、全て俺の物だ。だから返してもらう」
領主様の顔に、焦りの色が見える。
ダンジョンマスターが出て来るとは思わなかったんだろう。
「ダンジョンマスターだって!?」
「あれがダンジョンマスターなのか!」
そして、わたし達は広場の最前列までたどり着いた。
「お命頂戴!」
サーリャが問答無用でダンジョンマスターに斬りかかる。
でも、その剣を領主様が受け止めていた。
「何!?」
サーリャが驚く。
「サーリャ、落ち着いて!」
ママが叫ぶと、サーリャは飛び退ってこちらに来た。
「ダンジョンマスターに手を出すな! 領主の命令だ!」
その声に、衛兵達も動きを止めている。
でも、ダンジョンマスターはわたしとサーリャを見ていた。
「お前は……7年ぶりか? 生きていたとはな」
見抜かれた!
姿形は変わっているのに、どうして。
「魔王すら生み出せるダンジョンマスターと事を構えるな! 手出しは無用だ!」
領主様が叫ぶ。
魔王を作ったのはわたしだけどね。
もしかして、リストラされて今は替わってるのかな?
「少し分が悪いか? 勇者までいるとはな」
勇者!?
「手伝いに来ました! あいつが悪い奴ですよね!」
「ルルーナ!」
「馬鹿ねぇ、ダンジョンマスターは悪い奴ではないでしょぅ?」
「わ、悪いです……このダンジョン、マスターからは、悪いオーラを感じ、ます」
「みんな頑張って!」
「フランセス、エリシャ、エレンまで!」
「賢者に古代種の姫に妖精姫か、ふふふ、悪くない人選だ」
ダンジョンマスターが、わたしを見て笑っている。
「さて、どうしたものかな、黄金都市のアイテムなどどうでもいい人物に会ってしまった」
ダンジョンマスターが、わたしを見ている。
領主様も、その視線を追ってわたしを見ていた。
「貴様の趣味は悪くない、俺好みだ。出来れば敵対はしたくないのだが……今日のところは退くか」
「逃がさん!」
「ふふふ、忠犬よ、お前を倒すのも骨が折れるしな」
「頼む、ダンジョンマスターに手をさないでくれ!」
領主様の懇願に、みんな少し後じさるけど、サーリャは気にしていない。
「領主よ、黄金都市のアイテムは預けておく、この国の王とでも相談するがいい、さらばだ」
「逃がさんと言っただろう!」
「剣聖サナよ」
ダンジョンマスターがそう言うと、目の前にフランセスくらいの年頃の女の子が現れた。
「適当に遊んでやれ、また会おう、同胞よ」
「フッ!」
サーリャの無言の剣戟がダンジョンマスターに迫る。
領主様では捉えきれないレベルの剣戟だ。
でも、それをサナと呼ばれた女の子が受け止めた。
ダンジョンマスターが消える。
「くっ、せっかくのチャンスを!」
「すごーい、サーリャさんの本気を止めるなんて、剣聖なんで……しょっ!」
ルルーナが聖剣を振り下ろす。
過去未来に渡って、自分の最高の一撃を再現できる剣だ。
若い頃は未来の自分を。
往年は過去の自分を。
でも、サナはその一撃さえ受け止めて……はたき落としていた。
「なっ!」
ルルーナが驚いている。
これが剣聖の技なんだろう。
作るのに、すごいポイントがかかりそうだ。
「…………」
もう、ダンジョンマスターは去った。
この子と戦う意味はない。
「みんな、そこまでよ、武器をおさめて?」
ママが仲裁に入る。
戦いは……終わっていた。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
「すげええええええええっ!」
「なんだ今のは!」
「冒険者すご過ぎだぜっ!」
あ、そうか、全部マジックアイテムで見えてたんだっけ。
話のやりとりも、動きも、全部見られていた。
まぁ、冒険者志望が増えるならいのかな?
「あいつの手の者なら、戦力は奪っておきます」
サーリャがサナと対峙する。
「待って、サーリャ」
それをママが止める。
「あなたも、早く帰って」
「置いて行かれました……帰れませんー」
サナは、緊迫した空気を台無しにするように残念な顔をした。
今作られたなら、帰るも何も、行くところなんか無いだろう。
「サーリャ、その子は大丈夫だよ」
「くっ……」
サーリャが剣を下ろして、その場の混乱は終わった。