第三十九話 領主様の就任記念祭
「ただいま」
「お帰り、ママ!」
黄金のドラゴンを倒した日の昼頃、ママがギルドに帰ってきた。
ドラゴンと戦うことを楽しみにしていたルルーナが、大きなマジックバックを抱えている。
丸ごと持ってきたんだろう。
「お帰り、怪我はないかい?」
「ただいま、お母さん、大きな怪我はないです」
「僕がドラゴンの尻尾で吹っ飛ばされて、骨が折れたくらいだよ」
そう言う割には、ルルーナはピンピンとしている。
もう治療魔法で治したんだろう。
「ドラゴン!? ドラゴンと戦ったのかい? 黄金都市で?」
おばあちゃんが、ちょっと真面目な声になる。
「ドラゴン倒したよ、それも黄金のドラゴンだった!」
「黄金のドラゴン?」
「おいおい、すげえな」
「そんなのいたのかよ」
昼ご飯を食べていた他の冒険者が、ざわざわし始める。
「…………」
そんな中、サーリャが目配せしてきた。
見ていたかという意味だろう。
わたしは、それに頷いてみせる。
「そうかい、良くやったね、領主様に高く買い取ってもらおうかね」
「やったー!」
「おめでとう」
わたしは、拍手してあげる。
「さあ、ご飯でもお酒でも、好きに食って休みな」
「お酒良いの!?」
好奇心旺盛なルルーナが目を輝かせる。
「ルルーナは子供だから駄目!」
わたしがそう釘を刺すと、ちぇーっとふてくされて、みんなが笑った。
ママ達が黄金のドラゴンを倒して一週間が経った。
今日は、領主様の就任20周年記念祭だ。
ギルドで集めた食糧は、塩漬けにしたり燻製にしたり、新鮮な物はそのままだったり。
全部、領主様に買い取ってもらっていた。
クエストだったから、冒険者も儲かって、街のみんなもお腹が膨れて、良いことづくめだ。
お祭りなので、あちこちでお酒も振る舞われるらしい。
冒険者も今日はお休みで、冒険に出る人はいない。
ギルドも半分休業状態で、おばあちゃんと機械兵のみんなが残っているだけになっていた。
「では、行ってらっしゃいマセ」
「うん、ギルドをお願いね」
「お任せ下サイ」
「おばあちゃんも来ればいいのに」
「もうお祭りなんて歳じゃないのさ、いっぱい楽しんで来な」
わたしは、久し振りにママとサーリャとお出かけしていた。
お祭り見物だ。
朝早く、ルルーナとフランセスとエリシャとエレンも出かけて行った。
どこに行くつもりなのか、割とはしゃいでいた気がする。
ギルドには、お祭りに興味ない冒険者と、おばあちゃんの昔なじみの人達が集まるらしい。
お酒も食事もタダだから、大体の冒険者はお祭りに出かけるけれども。
街の広場では、大道芸人たちが人だかりを作っていた。
火を噴いたり力業を見せたり、人間離れした技を見せたり。
演劇や吟遊詩人の音楽、遠い異国の商人の売り物。
屋台の食べ物も、今日は全部無料だ。
ひとしきり楽しんだ後、広場で領主様の演説が始まった。
領主様の前に、ママ達が倒した黄金のドラゴンの頭が置かれる。
「野郎共、飲んでるか!」
「うおおおお!」
マジックアイテムだろう、遠くまで声を届かせるアイテムと、領主様が遠くからでも見えるアイテムが使われていた。
豪放磊落な領主様。
若い頃は冒険者で、出世して王様に認められて領主になったらしい。
冒険者冥利に尽きるだろう。
もちろん、王様になるのが1番だけど、それは難しい。
おばあちゃんが若い頃、冒険者だった領主様の世話をしたことが、あるとかないとか聞いたことがある。
「今日はみんなに発表がある!」
発表? なんだろう。
「聞いて驚けよ! また世界に冒険の日がやってくる!」
意味がわからなくて、みんなざわざわし始めた。
冒険の日? 一体何だろう。
「あー、わからねえか、じゃあ説明するから、大人しく聞けよ?」
「今から7年ほど前、ダンジョンは俺たちに牙を剥くようになっちまった」
「ダンジョンに頼り切っていた俺たちは、そこで途方に暮れちまったんだな」
「でも、今度は違う」
「ダンジョンに頼り切りじゃねえ」
「ダンジョンが無くても、何とかやっていけるくらいの経済は作り上げた」
「だが、そこに、ダンジョンの恩恵が加われば、怖い物はねえ!」
「これをみろ! この黄金竜は、千年以上前に滅びた地底王国の番人だった!」
そうだったんだ。
後付けかな?
「それが、凄腕の冒険者の手によって討ち取られた!」
ママ達のことだ。
わたしは、ふたりに拍手をする。
ママは照れて、わたしを抱き締めた。
「その地底王国には、ダンジョンをコントロールできるアイテムがあるらしい!」
「昔のように、水も食糧も、薬も金属も、布も紙も、なんだって手に入るようにできるって事だ!」
「おおおおおおおっ」
みんながザワザワとし始める。
いや、どよめきと言った方がいいか。
「俺はこの情報を王から得て、独自に調査をつづけてきた」
「そして、ついにダンジョンをコントロールできるアイテムを発見した!」
「おおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「まだ、使い方がハッキリとしてねえが、時間の問題だろう」
「豊かだった昔の時代が、また来ることになる!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「だが、まだダンジョンは危険だ、俺がいいと言うまで勝手に入るんじゃねえぞ? それまでは、冒険者に任せるんだ」
「それに、昔だって、ダンジョンの奥に入れば、危険のひとつやふたつはあった」
「完全に安全になるまでには、まだ時間がかかるかも知れねえ」
「だが、俺はこのことを、お前達に一刻も早く伝えたかったんだ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「楽しめ! 前向きに生きろ! 暮らしやすい街作りを、俺がやってやる!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「それじゃあ、祭りを楽しんでくれ! 以上だ!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
街のみんなの高揚は、最高潮に達していた。