第三十八話 黄金のドラゴン
ママが帰ってこなかった翌日。
いつもより早く起きて、朝の掃除とかをハダン君とモルソー君とやった。
同調して、ママの様子を見るためだ。
でも、やっぱりふたりに教えることが多くて、なんだかんだとそんな時間はなかった。
クエストをもらって、ふたりにも説明を聞いてもらって、朝の仕事の時間が終わると、忙しくなる時間までもうちょっとになってしまった。
「無理かぁ……」
「どうしたんですか?」
「ううん、なんでもないですよ」
不思議そうな顔をするモルソー君にそう言うと、わたしは受付に座った。
朝早く出かける冒険者を見送り、朝食に起きてきた冒険者を確認し、依頼の整理とクエストの準備をする。
今日のクエストは、領主様の就任記念祭の準備で、食糧を高く買い取るという大ざっぱなクエストだった。
冒険者は、なにか食べられるモンスターを狙いにいくだろうし、採取の孤児院の子達も、今日は森の果物とかを採ってくると良いだろう。
マジックバックは、ギルドにあるだけを用意する。
そんなに高い物じゃないけれども、壊れたりしてしまうので、全盛期の、冒険者がいっぱいいた頃の物でなんとかやりくりしていた。
冒険者の朝食が終わると、依頼とクエストだ。
みんなクエスト掲示板をを見て、パーティの人間と相談している。
どこに行くか、何を採ってくるか。
決まったパーティーは、受付でマジックバックを借りると出かけて行った。
「ふぅ……」
「お疲れさまですね」
「ハダン君は、今日の夜が大変だから、ちょっと休んでいて良いよ」
「いえ、なにかやっていた方が気が楽ですから」
身体付きが良いけれども、ハダン君は物腰やわらかな人だった。
心持ちイケメンに見える。
モルソー君は頭良さそうに見えるけれども、個性があって良かった。
「僕も、今日の夜は解体やりますよ」
「モルソー君はやったことあったっけ?」
「一度やりました、お手伝いしかできませんが、頑張ります」
「うん、期待してるからね」
少し、受付をふたりに任せて、わたしは後ろの方に座る。
ママはどうなっているだろうか。
わたしは、ルルーナに同調を開始した。
「うわっ!」
思わず声を上げてしまう。
ハダン君とモルソー君が変な顔をした。
ルルーナは、戦闘の真っ最中だった。
建物をなぎ倒して黄金のドラゴンが暴れている。
「おのれぇぇぇぇっ! おのれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
しゃべっている!
知性のあるエルダードラゴンだ!
でも、それにしても、金色のドラゴンはめずらしかった。
別に、金で出来ていたりはしないだろうけど、かなりレベルが高いだろう。
「しわにくるしゃっ! しわにしちゃくるしゃぁぁぁぁっ!」
言語が滅茶苦茶だ。
ドラゴンの言葉ということでも無さそうだ。
知性が低いドラゴン? いや、狂っているんだ。
「…………」
ドラゴンが狂う。
なんでもないことのようだけど、なにかの前触れのようで怖かった。
人間と違って、ドラゴンはメンタルが強いから簡単に狂ったりしない。
作られたときから狂っていた可能性もあるけど……。
「爆発行きます!」
エリシャがそう叫ぶと、ドラゴンの頭の辺りで爆発が起こった。
ドラゴンもだけど、みんなもくらくらしている。
エリシャの爆発魔法は、そういう効果もあるみたいだ。
魔法形態が、ちょっと違うんだろう。
エリシャの住んでいたところは、外界と隔離されていたようだし、伝統的な魔法なのかもしれない。
「ぐるぅぅうしゃぁぁぁぁっ!」
ドラゴンが暴れると、上から建物の破片が落ちてくる。
「むん」
サーリャは結界を張って、それを防いでいるようだった。
建物が落ちてくるのを防ぐのもあるけど、ブレスを警戒しているんだろう。
「やああぁぁぁっ!」
ママとルルーナは、ドラゴンの足下で戦っている。
ルルーナはダメージを受けているようだった。
ママは軽快に避けているけど、ルルーナは攻撃に意識が向きすぎている。
でも、くらくらとしている今がチャンスと、ママとルルーナは攻撃に集中していった。
「くらえええぇぇぇぇっ!」
ルルーナの一撃は、人生過去未来で1番の一撃を持ってこられる聖剣だ。
ドラゴンは立っていられなくなる。
「ぐおるるわぁあぁぁぁぁっ!」
そのまま、建物に寄りかかるようになってドラゴンが倒れる。
「結界を解きます!」
サーリャが結界を解く。
攻撃に加わるんだ。
「魔法行きますよ!」
エリシャが大きな土塊をドラゴンに落とす。
胴体が潰れるような、嫌な音がした。
「おのれ! おのれぇぇぇっ!」
狂った声を上げているドラゴンも、声が小さくなっている。
ママは背中にあるドラゴンの弱点、逆鱗を探しているようだった。
「逆鱗どれ!? わかんないよ!」
ルルーナは、初めてのドラゴン戦で、逆鱗がわからないようだ。
「あれよ! よく見てて!」
ママは逆鱗を見つけたのか、ドラゴンの上を走っていく。
そして、ウロコが逆の形になっている小さな部分を探し当てると、そこに剣を突き刺した。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
「奥様! 離れてください!」
ママは、サーリャの言葉に剣を突き刺したまま離れる。
そして、サーリャはそこに電撃の魔法を放っていった。
「ぐわあああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁっ!」
絶叫を残して……ドラゴンは動かなくなった。
勝利だ。
「やったー!」
ルルーナが喜んでいる。
みんなも、その場にへたり込んでいた。
わたしは、最後のクライマックスから見たけど、きっと大変だったんだろう。
それにしても、かなりの大きさだ、マジックバックに入るかな?
わたしはそんなことを思いながら、同調を切っていた。