第三十六話 新人研修(2)
「では、手付け金はいくらお渡しすればよろしいですかな?」
商人さんの護衛の依頼を受け付けていた。
護衛の場合、商人さんは隣町に行ってしまうので、後から報酬を受け取りに行くことは出来ない。
大体の場合は、依頼を持ち込まれた時点で報酬を受け取ってしまうのがパターンだった。
でも、冒険者が何人かわからない。
ソロの冒険者と10人所帯の冒険者が、同じ報酬では仕事が出来ない。
なので、ギルドとしてはおおよそ、5人分くらいで仕事を受けてしまうのが常だった。
「では、銀貨850枚をお預かりします」
「わかりました」
商人さんは、銀貨850枚を出す。
そして、預かったという証明書をギルドから発行した。
「では、お願いしますよ」
「はい、腕利きをご用意しますので」
少し笑って、商人さんは出て行った。
腕利きは、あまり商人の護衛をやらない。
それをやるということは、ギルドに腕利きが余っているという意味になる。
つまり、冗談だ。
「さて、説明しますね」
後ろで見ていたモルソー君に説明する。
「お願いします」
「計算して下さいね。ギルドの手数料が20%なので、冒険者の方にお支払いするのは銀貨680枚です」
「基本的には、20%で計算して良いですか?」
「特別な場合を除いて、20%が世界共通のルールです」
「わかりました」
「特別な場合は、お客様に提示する額を良く考えないと駄目ですね」
「そうですね、ちなみに、特別な場合というのは良くありますか?」
「あまりないです、ギルドの取り分を、大きくしたり、小さくしたりは、あまりありません」
「そうですよね」
「お得意様で安くする場合とか、相当にリスキーな依頼で高く設定するとか、そういうことがなければ、ギルドの取り分は20%です」
「わかりました」
モルソー君は、本当に覚えが良さそうだ。
魔法の才能はなかったかも知れないけど、頭は親譲りかも知れない。
「マタビ峠越えがあるので、募集レベルは25からにします」
「わかりました、行き先までの距離と、ルート上の危険地帯を考えるんですね」
「そうです。なので、この辺りの地理には詳しくなってもらいます」
「わかりました」
「冒険者を25レベルと仮定した場合、一日の報酬は銀貨40枚は欲しいです」
「そこから逆算したんですね、なるほどです」
「ベテランだと、帰りの三日間が無料になるので、あまり護衛仕事は好みませんが、25レベルくらいだと、銀貨40枚くらいで納得すると思います」
「冒険者のレベルはどうやって見ますか?」
「冒険者プレートを見せてもらって、この水晶の台座に置きます」
「さっきもやっていましたね」
「この水晶の台座は、商人ギルドと冒険者ギルドの情報が入っていますから、盗まれないように気をつけてくださいね」
「はい」
「水晶にプレートを付けると、レベルや過去に問題行動がなかったかなど、冒険者の情報が見れます」
「問題行動があった場合はどうしますか?」
「程度にもよりますが、依頼は受けさせないでください。初めのうちは、わたしかおばあちゃんを呼んでください」
「わかりました、覚えました」
といっても、しばらくは1人で依頼を受けることはないだろう。
まだ、当分先の話だ。
「でも、コットンさんは7歳とは思えないですね」
「ずっとここで見て、育ってきましたから」
「それにしても、すごいですよ」
「そんなことないです」
「近所の7歳の子なんて、普通にただの子供ですからね」
「たまたま、冒険者ギルドの家に生まれただけですよ」
「将来は、冒険者になるんですか?」
「ママは冒険者になりましたけど、わたしは考えてないですね」
冒険者になることは考えていない。
ダンジョンマスターに返り咲かないと。
「冒険者が持ち帰ったアイテムは、おばあちゃんに鑑定してもらって下さい」
「わかりました」
「これは、一朝一夕では身につかないので気長に覚えて下さいね」
「これが1番不安ですよ」
アイテムには相場があるので、すごく難しい。
目利きをするのも難しいし、ましてや値段を付けるなんて、相当に大変だった。
「モンスターの持ち込みは、解体所に行ってもらってください」
「はい、あっちですよね」
「そうです、損傷具合によっても買い取り額が変わったりするので」
「わかりました」
その後、夜の清算の時間でも、モルソー君とハダン君は大忙しだった。
覚えることが多くて、大変だろう。
まぁ、いきなり任せたりはしないから、頑張って欲しい。
そう思いながら、わたしは眠りについた。