第三十五話 新人研修(1)
今日は、討伐に行っていた冒険者からグレイトボアが持ち込まれていた。
グレイトボアは、食用になるモンスターの代表格で、持ち込まれることも多い。
4頭が持ち込まれていて、冒険者に代金は払い済みだった。
つまり、うちで買い取ったということだ。
パパはエプロンをして、大きな包丁でグレイトボアを捌いていく。
それを手伝っているのが、この前見習い商人になったハダン君だった。
初めての解体に目を白黒させながら、それでも必死に食らい付いている。
血が苦手なのかな?
まぁ、慣れだと思うけど。
一頭目は、パパが捌いているのを教えて貰いながら見ている。
二頭目からは、手伝ったりするのかな。
そして、もうひとり見習い商人になったモルソー君は、おばあちゃんに書類仕事を教えてもらってから、わたしのところに付けられた。
ハダン君の方が年上で、身体付きも良いから、まず解体ということになったんだろう。
「モルソー君は、書類仕事覚えられましたか?」
「はい、なんとか覚えられたと思います」
おばあちゃんが、筋がいいと言っていたので商人向きなんだろう。
冒険者になるばかりが稼ぐ道じゃない。
「お家は何をしていますか? 書類関係あります?」
「父は賢者の学院で講師をしています」
おお、この街にある魔法を教える学校だ。
賢者の学院は、街ごとにひとつある感じで、世界に魔法を普及させている。
「お父さんは魔法使いなんですか?」
「はい、冒険はしたことがないそうですが」
それなら、商人が適正とは言い難くなってきた。
「じゃあ、魔法使いにならなくていいんですか?」
「父に、素質がないとハッキリ言われました」
割と明るい顔で、モルソー君は言った。
もう過去の話なんだろう。
「でも、妹が素質があるということで、賢者の学院に通っています」
「そうなんですね」
でも、読み書きも計算も出来るし、地頭も良さそうだ。
この時代、賢者の学院で働くのも大変だろう。
モルソー君は、別の道を歩むんだ。
「すみません」
そこに、商人風の人が受け付け窓口にきた。
きっと依頼だ。
「見ていてください」
「わかりました」
「どうされましたか?」
「冒険者の方に依頼を出したいのですが」
「では、おかけください」
商人さんが、受付に座る。
「失礼ですが、貴女が受付嬢ですか?」
「はい、未熟者ですが、お客様にご迷惑をかけたことはないと自負しております」
「それはすごい、私なんて、未だに迷惑をかけっぱなしですよ」
「そんな、ご謙遜を」
依頼が来ると、まずわたしが若いことに驚かれる。
それはそうだろう。
仕方なし。
「では、護衛を頼みたいのですが」
「いつから、どちらまでですか?」
「明後日の朝、出発をしようと思っています」
わたしは、依頼書に商人の護衛、出発の日付を明後日の日付で書き込む。
「どちらまで行かれますか?」
「隣町のリンガーまで行きます」
まぁ、良くある護衛の依頼だ。
「失礼ですが、商人ギルドの身分証をお持ちですか?」
「はい、こちらになります」
わたしは、身分証に反応する水晶を机の上に出す。
商人さんは、それに身分証をくっつけた。
「お名前は、テリシュ様ですね、確認が取れました、ありがとうございます」
支払いで揉めたときなど、商人ギルドに入会しているか否かで、結構違う。
商人ギルドに入っているなら、少しお安くするのが定番だった。
「馬車ですか?」
「そうです、使用人が全部で3人と私になります」
4人で行商ということはないだろう。
それなら、結構ちゃんとしたお店の主さんだ。
「リンガーまではおよそ、馬車で三日です」
「はい」
「途中で峠越えがあるので、そこで野盗が出るかもしれません」
「はい」
「パーティーの人数にも寄りますが、一日ひとり銀貨50枚が相場になります」
「そうですね、それくらいだと助かります」
「五人パーティーだとして三日で銀貨750枚ですが、峠がありますので、危険が予想される分、少し手厚く頂きたいです」
「ほう」
「危険手当として、銀貨100枚をプラスでいかがでしょうか?」
「ふむ」
商人さんが考えている。
でも、すぐに答えは出た。
「今は兵士崩れが野盗になって危険です、そのくらいでしたらお支払いします」
「ありがとうございます」
「いえいえ、最近は冒険者ギルドも少なくなってきましたからな、商人としては有りがたい限りですよ」
「そこなのですが、募集をかけますが、人が集まらない可能性もあります」
「わかりました、そのときはまたご相談させてもらいます」
「いえいえ、食事などに関しては、任務に当たる冒険者とお話しください」
「小さいのにしっかりしておられる」
「とんでもないです、でも、しっかりやりますからお任せ下さい」
商人さんとの話はつづいていった。