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第三十四話 テイマーの素質


 アイヴォリーが冒険者登録をした翌日。


 早速4人は冒険に出かけるみたいだった。


「では、新しいダンジョンを調べて参リマス」


「うん、お願いね」


 そしてガブリーとメアリーにだけ聞こえるように言う。


「今のダンジョンマスターのことを知りたいから、詳しく調べてきてね」


「お任せ下さい、フランセスを鍛えながら調べましょう」


「よろしくね、メアリー」


 そして4人は出かけて行った。


 朝のゴタゴタが終わり、昼時になると酒場が賑わってくる。


 もうすっかり、ここの料理が美味しいということが広まっているようだ。


 そこに、酒場の隅で話しているふたりの人を見つけた。


 ネジルさんとイジュランさんだ。


 ネジルさんは、街の若い子に冒険者の基本を教えている教官で、イジュランさんはわたしの鑑定でも調べることが出来なかった達人だ。


 そして、その隣で、冒険者修行をしている街の女の子が、イジュランさんのフェンリルと遊んでいた。


 フェンリルはまだまだ子供だから、遊んでもらえて嬉しいようだ。


 わたしは、その話を遠くから盗み聞きしてみる。


 ばれてるかな?


 ふたりとも高レベルだろうから。


 でもなんの反応も見せずに、ふたりは話し続けていた。


「テイマーの根本的な素質とはなんですかな?」


 これはネジルさんだ。


 イジュランさんは楽しそうに、街の子とフェンリルを見ている。


「月並みですが、モンスターを愛せる心ですな、一言で言うならこれに尽きます」


「モンスターが好き、とは違うのですな」


「そうです、知的探求心ではなく、可愛がりたいという愛ですかな、例えて言うなら親が子に注ぐ愛情に似ています」


「ふむ、なるほど」


「これがなければ、スタート地点にすら立てませんが、極めるにもこれが深く必要です」


 モンスター好きなわたしがテイマーになれるかというと、そんなことはないという話だ。


 愛があるか?


 モンスターへの愛。


 あるんだけど、わたしの愛は歪かも知れない……。


「好きこそものの上手なれ、とは言いますが、簡単ではないですな」


「もっと実利的に言うと、モンスターと意思の疎通が出来るか否かです」


「ほう、生物でなくとも、悪魔や精霊、機械などもテイマーがいますな」


「そうです、愛を必要としないモンスターもいます。しかし、愛せなければ意思の疎通は取れないでしょう」


 そういうものか。


 知的レベルの高い悪魔や機械なら、テイマーと言うより仲間になってしまいそうだけど。


「あの子はどうですかな?」


 フェンリルと遊んでいる子をネジルさんが見る。


 イジュランさんは、眼を細めながら口を開いた。


「なかなか良い素質を持っているかも知れません」


「ほう」


「デスタもジャスワンも、すぐ、この子に懐きました」


「愛する心があると」


「そうです、そしてそれは意志の疎通に繋がる」


 フェンリルも知らない人よりは、自分を可愛がってくれる人のためになりたいだろう。


 スタート地点には立っているわけだ。


「もし、あの子が、テイマーに向いているなら少し教えを頂いてもよろしいですかな?」


「ほう、若い冒険者を育てているのでしたな」


「そうです、私はこの子達になるべく長生きして欲しい。そのためには、適切なスキルを学ばせたいのです」


「では、二頭いる一頭、デスタを付けてみましょうか」


 ええっ、フェンリルをくれるの?


 育てられる?


「よろしいのですか?」


「はい、いずれは独り立ちして別れさせる予定でした。それなら、後進に譲るのも良いかと」


 これはナイスな展開だ。


 さすがネジルさん。


 年の功がすごい。


「では、あの子を鍛えてあげてくれませんか」


「いいでしょう、しかし、本人の意思を確認したいですな」


「デイジー、ちょっといいかい?」


「なんですか、ネジルさん」


 デイジーと呼ばれた子がふたりの前に行く。


「お前は、テイマーの素質があるかも知れん、そちらの修行をしてみないかい?」


「テイマー!? 私がですか!?」


 デイジーは嬉しそうだ。


「デイジー、テイマーを知っているのかい?」


 イジュランさんがそう聞く。


 デイジーは屈託のない声で、ハッキリと言った。


「知らないです! でも、ハクイと銅像のテイマーのお話は知っています!」


 ハクイと銅像のテイマーは、おとぎ話だ。


 呪いで銅像になってしまったテイマーの元を、決して離れなかったハクイというドラゴンのお話だ。


 最後は、悲劇的な結末を迎えることが多かったが、最近は幸せに終わる話に変わっている。


 この悲劇的な世の中で、子供たちに温かな物語を届けたいと願った誰かがいたのだろう。


「デスタを君に付けよう、明日から、私と一緒に冒険だ」


 デイジーは目を輝かせている。


 いきなりの実地訓練だけど、ここは任せて大丈夫だろう。


 こんな風に進路が決まることもあるのだなと思いながら、わたしもお昼を取ることにした。


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