第三十二話 突然の来客(2)
「今のダンジョンマスターからは、死か栄光かっていうテーマでやってくれって通達が来たわよ」
「なにそれ?」
なんか、もにょもにょする。
死か栄光かって、なんか恥ずかしいような……。
「あなたの時みたいに簡単にしないで、冒険者を殺すか、お宝を持ち帰るかみたいな感じ?」
「うーむ」
やっぱり、難易度を上げにかかってるわけか。
この戦つづきの動乱の時代に。
「でも、まさか冒険者ギルドをやっているとはね」
「ご注文お持ちしました」
今日のオススメが運ばれてくる。
お腹が減っているから、ありがたい。
ラファエルのワインとチーズも運ばれてきた。
「ありがとうございます」
「旨そうだな」
「ここのお料理美味しいからなんか食べて」
「じゃあレアステーキが良いな」
「はい、レアステーキですね。お待ちくださーい」
でも、ステーキじゃあ差は付かないかも?
ハチさんのことだから、何か美味しい秘密があるかも知れないけど。
「ここの料理長は、わたしが作ったんだよ」
「魔物作成で?」
「そう。でも、魔物作成で料理人を作ったら、転移者っていうのがついちゃってね」
「て、転移者?」
ラファエルが驚いている。
「知ってるの?」
「違う世界からきた人よ、あなたの力は健在ね」
「そうなんだ」
まぁ、すごいポイント消費したからね。
普通じゃないことはわかる。
「転移者がいるってことは、動乱の前触れかもね」
「え、なにそれ?」
「今つづいている動乱も、転移者が切っ掛けだったらしいから」
「そうなんだ」
「お待たせしました、レアステーキです」
「早いな」
ラファエルが驚いている。
人気のメニューは作り置きがあるのかな?
温めるだけとか。
「うん、美味しい、肉もだけどソースが美味しいわ」
「でしょ? 料理長は転移者だしね」
「知らなかったくせに」
「転移者のことは、全然知らなかった。まぁ、昔話くらいに聞いたことはあった気もするけど」
「本当に、あなたってダンジョン以外のことを知らないわよね」
「まぁ、そういう性分なもんで」
ちょっと頭を掻く。
戦のこととか、あまり調べたりはしなかった。
困っている人がたくさんいることはわかっていたので、神様が褒めたようなことはしたけれど。
「なにか変わったことは無いの?」
「そういえば、今日、鑑定できない冒険者が来た」
「はぁ!? あなた鑑定SSSでしょ?」
「そうだけど……」
鑑定できないものはできないんだから仕方なし。
「動乱ね」
「え?」
「動乱が起きるわ」
ラファエルは大まじめにそう言っていた。
動乱好きなのかな……?
「今も絶賛、動乱中だけど……」
「じゃあ、動乱が治まる」
「そうなの!?」
そんなシンプルなものなのかな。
動乱好きすぎでしょ。
「そういうなにか起きるときに、転移者が現れるのよ」
ハチさんが動乱を治めるイメージが沸かない。
ここからすごいことが起こるのかな。
「…………」
ちなみに、真祖は滅茶苦茶強い。
魔王とか竜王とか、そういうレベルだ。
だから真祖の洞窟の通常ボスは、配下のヴァンパイアだった。
真祖のところまでたどり着いた冒険者は、わたしの知る限り誰もいない。
いつかは倒されてしまうかも知れないけど、とにかくしぶといのがヴァンパイアだった。
「じゃあ、ラファエルが動乱を治めるとか」
「嫌よ、人間の争いに首を突っ込むなんて」
そうかー、そうだよなー。
わたしも嫌だったから、首を突っ込まなかったんだけど。
「あら、コットン、お友達?」
ちょっと酔っているママが来る。
「そうだよ、お友達」
「初めまして、ラファエル・ド・アゼマと申します」
ラファエルが立ち上がって一礼した。
「え、やだ、貴族の方?」
ママの酔いが一気に覚める。
「はい、ですがコットンのお友達ですので、お気になさらず」
「でも、こんな遅くに大丈夫? ママが送っていくわよ」
「執事が来ていますので、大丈夫ですよ」
入口の方を見ると執事が立っていた。
ちなみに高位のエルダーヴァンパイアで、ママでも勝てない。
「じゃあ、今日は帰るわ、また今度ね」
「うん、じゃあ、また今度」
そう言って、ラファエルは帰っていった。