第三十一話 突然の来客(1)
夕方になって、ママが帰ってきた。
「お帰りなさい」
「ただいま、何もなかった?」
「うん、何もなかったよ」
受付の机越しにハグしてもらう。
冒険帰りなのに、ママはいい匂いがした。
「今日はね、お宝で食器が出たよ」
ルルーナが得意そうだ。
宝箱があったんだろう。
「食器?」
無くはないけれど、食器は珍しい。
「違います、食器ではなく茶器です」
「そう茶器、茶器だ」
ルルーナはアホではないんだけど、いい感じに適当だ。
ストレスが無さそうで良し。
「茶器は貴族の人が買ってくれるから高いよ」
下手なマジックアイテムよりも高い物もある。
この動乱の時代にも、儲けている貴族や商人はいくらでもいた。
「これなんだけど……」
カップが4客にティーポットとシュガーボックスだ。
念入りに見てみるけど、欠けや割れはない。
さて、鑑定。
「どんな効果かわかる?」
「多分、冷めない茶器だよ」
鑑定したから間違いない。
「お茶が冷めないマジックアイテムか~、新しく煎れ直せばいいのにね」
「ティータイムでお湯が冷めないのは、きっと良いことなんだよ」
お客さんが来て、おや冷めないティーカップですか。
安物ですが、家内が気に入っておりまして。
みたいなところから話が弾むこともある。
「それじゃあ、そんなに高くない? ママは茶器わかんないな」
「パパに市場を探ってもらうよ。茶器の場合、効果よりも芸術性が評価されることが多いから」
「そういうものかー」
ルルーナがカップを逆さまにしてみるけど、何も出てこない。
今欲しがっている貴族がいるかとか、市場に依るので値段はパパ任せだ。
「じゃあ、お願いね」
「うん!」
酒場の方に行くママとルルーナを見て、サーリャを手招きした。
「どうしましたか?」
「今日鑑定できない冒険者が来た。テイマーの人で、フェンリルをつがいで連れている人」
「フェンリルですか?」
サーリャもちょっと驚いている。
わたしなら作れるけど、普通にテイムするとなったら、どこから手を付けていいのか皆目見当も付かないレアモンスターだ。
少なくとも、この辺りで見つかるモンスターじゃないと思う。
「初めはファングウルフかと思ったけど、フェンリルだと思う」
「わかりました。注意しておきます」
サーリャと意思の疎通をしておく。
凄い人ならば、ダンジョンマスターを倒す手伝いを頼めるかも知れない。
まぁ、シンプルにどういう思惑かわからない実力者を注意しておく、という意味もあるけど。
そして、続々とやってくる冒険者を捌いていく。
クエスト補助金を渡したり、アイテムを買い取ったり色々だ。
それが終わると、わたしの食事になった。
ママはもうお酒を飲んでいるから、近づかないでおく。
ルルーナは早寝早起きだけど、今はフランセスとエリシャとエレンと話をしていた。
「今日は何を食べようかな」
「おい」
「え?」
肩を叩かれて振り返ると、そこに十歳くらいの女の子がいた。
一瞬誰だかわからなかったけど、すぐに思い出す。
「ラファエル!?」
「お久しぶりね」
黒のフリフリを着ているからわからなかったけど、この子は真祖の洞窟のボスで、わたしが作ったヴァンパイアの真祖、ラファエル・ド・アゼマだった。
「ええええ、なんで街にいるの!?」
「いいじゃないか、別に」
わたし達は、目立たないように酒場の隅っこに座る。
聞かれたくない話もあるだろうし。
「良くないでしょ、ボスなんだから」
「ご注文お決まりですかー?」
ウエイトレスさんが来る。
わたしがこっちに来るときから目を付けていたんだろう。
「今日のオススメはなんですか?」
「今日は、ハンバーグと野菜の煮込みシチューだよ」
わたしは今日のオススメを注文する。
ラファエルは、ワインとチーズを注文した。
「今日、洞窟にサーリャが来たからおかしいと思ってね」
「あー、そっかー」
「死んだんだと思ってたわ」
わたしは死んだことになっているんだろう。
元ダンジョンマスターとしては不甲斐ないが。
「一応生きてるよ、でも、ダンジョンマスターではなくなったの」
「そうみたいね」
この姿を見ればわかるだろう。
7歳の受付嬢だ。
「転生したから、記憶とか能力とかは引き継いでいるんだけど……」
職業がダンジョンマスターから受付嬢になっている。
これはこれで好きなんだけど。
「ふーん、でも良かったわ。安心した」
「新しいダンジョンマスターはどう?」
それがすごく気になる。
今のダンジョンマスターが嫌だったら、手伝ってもらいたい。
わたし達は、話をつづけていった。




