第三十話 旅のテイマー
お昼ご飯を食べて、しばらくのんびりしていると、狼を二頭連れた男がギルドに入って来た。
モンスターテイマーだ! 格好いい!
テイマーは中年の渋いおじさんで、革の装備に身を包んでいる。
上質な装備だ。
マジックアイテムも含まれているだろう。
狼は、小さいけどかなり風格があった。
この大きさだとフェンリルということはないだろう。
でも、ファングウルフというには、ちょっと威厳がありすぎるか?
まさか本当にフェンリル?
認識阻害の魔法がかけられているのか、上手く見分けられない。
なんとなくフェンリルの子供っぽいけど、そんなはずはなかった。
簡単にテイムできるモンスターじゃない。
まず見つけることが難しいし、更にテイムするなんて……。
冷静に考えればファングウルフだ。
育て具合にも寄るけれども、25レベルくらいの強さがある。
「旅の者だ、しばらく仕事をしたいんだが」
「どうぞ、こちらで冒険者登録をしてください」
「ああ、助かるよ」
手続きをして、冒険者プレートを渡す。
「イジュランさんですね、身分証明書になりますので、盗まれたり無くしたりしないように気をつけて下さい」
「ありがとう」
「これで、この街には出入りできます。依頼はオススメできませんが、クエストなら紹介できますので」
「ああ、わかったよ」
依頼は信用問題になるから、旅の人には斡旋できない。
この人がどんな人かわからないからだ。
護衛の振りをして商人を襲うかも知れない。
そういうこともあって、入ってすぐの人、特に旅の人とかには依頼は斡旋できなかった。
「宿はどうしますか?」
「宿は別のところで取っているから大丈夫だよ」
ファングウルフがいてもOKのところだろう。
テイマーの泣き所は、街で宿を見つけられないことだ。
高級なところはまず無理だし、普通の宿でも断られることが多い。
「君はいくつだい?」
「7歳です」
「これは驚いた」
テイマーの人、イジュランさんは本当に驚いた様子でわたしを見た。
「色々な街で受付嬢を見てきたが、7歳は初めてだ」
「ちゃ、ちゃんとやりますよ!」
思わず身を乗り出す。
最近慣れてしまったけれども、旅の人だと変に思われるようだ。
「すまない、馬鹿にしたんじゃないんだ、すごいと思ってね」
本当に馬鹿にした感じではなかった。
わたしは、失礼しましたと言って椅子に座る。
「見たところ、他に受付嬢もいない、鑑定までやるんだろう?」
「そ、そうですけど」
「すばらしい才能だな、努力もか、俺は天才が好きなんだ」
「そ、そうですか……でも、わたしは天才じゃないですよ?」
「謙遜するな、だが、まぁ、それも天才の一部ではある」
「はぁ……」
ちょっと変わった人なのかも知れない。
旅のテイマーと聞くと、格好いいと思ってしまうけれど、普通の渋いおじさんのようだ。
ファングウルフは躾が行き届いているのか、ちょこんと座って身じろぎもしない。
わたしに構って欲しそうにしているけれども、自制の方が強いようだ。
わしゃわしゃして構ってあげたいけど、他人様のモンスターを勝手には出来ない。
「この街で天才に出会えたことに感謝を」
イジュランさんは、そう言ってクエストを見に行ってしまった。
ふう、なんか変な人? 冒険もソロみたいだし……。
でも、変に緊張する人だった。
なんかミスったらいけないみたいな、高貴なオーラを感じる。
やっぱり普通じゃないな。
わたしが、かなり惑わされている。
こんなことは初めてだった。
「…………」
イジュランさんを鑑定する。
悪人ではないと思うけど、念のためだ。
「え?」
でも、その鑑定は阻害されてしまった。
鑑定阻害?
めちゃくちゃ高級スキルなんですけど?
イジュランさんが、こっちを見てウインクした。
「…………」
すごい……鑑定阻害されるなんて、相当な実力者だ。
私の鑑定はSSSだから、冒険者を見られないはずはない。
凄まじい実力者だ。
じゃあ、もしかしてあのファングウルフもフェンリル?
「…………」
鑑定を行うけれども、テイマーの力か、主人と同じように阻害されてしまった。
遊んで欲しそうに見えるから、子供なのは間違いないと思うけど……。
後でサーリャに言っておこう。
しばらくこの街にいるみたいだし、何かあってからじゃ遅い。
世の中に、実力者はいるものだなと思いながらも、やっぱりテイマーは格好いいと思うわたしだった。