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第三話 受付嬢誕生


「ふ、ふふふ……女神様もお人が悪い」


 思い出した。


 全てを。


 しかし、7歳のコットンとしての記憶も気持ちもそのままだ。


「おぉ! お記憶が戻られたのですか!?」


「サーリャよ、変わらぬ忠誠を誓ってくれるか?」


「もちろんでございます!」


 ダンジョンマスターとしての力は、どれくらい残っているのか。


 そして、その地位を取り戻すことは出来るのか。


 長い戦いになりそうだった。




「ただいまー」


 銀の月冒険者ギルドの扉を開ける。


 パパもママもおばあちゃんも、みんな難しい顔をしていた。


「ああ、コットン、もう少し外に……おや、その人は誰だい?」


 わたしの後ろから入って来たサーリャを見て、パパが怪訝そうな顔をする。


 ここは冒険者ギルドなんだから、見知らぬ人が入ってくるのは不思議なことじゃない。


「道で倒れていたから、ぽーしょんを飲んでもらったの」


「コットン様に命を救われました、冒険者のサーリャです」


「おやまあ、これはこれは」


 おばあちゃんが奇妙な声を上げる。


 ママは、少し緊張した顔をしていた。


 凄腕の冒険者だから、サーリャの腕がわかるのかも知れない。


「聞けば、こちらは冒険者ギルドをやられているとか、是非とも活動させてください」


「いいのかい? うちはクエストもない小さなギルドだよ」


 今まで、大切に冒険者を育ててきたおばあちゃんは、正直にそう言う。


 ウソを吐いてまで引き留めるのは、信念に反するんだろう。


「構いません、この恩を返さずにはいられません」


 そこで、サーリャがローブの頭をはだける。


「おっと、エルフとは珍しい、この辺ではあまり見かけませんよ」


 商人のパパがそういう。


 ましてや、ハイエルフなんてそうはいないだろう。


 さすがに、そこまでは見抜けないみたいだけど。


「凄まじい腕ですね」


 やっぱり、ママは見ただけでサーリャのことを見破ったようだ。


 歩き方とかでわかるものなんだろうか。


 立ち姿とかもあるのかも。


「それじゃあ歓迎するよ、サーリャって呼んでいいかい?」


「はい、それでお願いします」


 おばあちゃんが立ち上がると、みんなも立ち上がる。


「疲れているだろう? 取りあえず部屋で休むといい」


 今は開店休業中だけど、広い一階は酒場や食事処も兼ねていた。


 もちろん、ギルド業務の受付や買い取り場、魔物肉の解体場や、冒険に必要な小道具なんかも売っている。


 そして、二階は宿屋、三階は家族や従業員の部屋があった。


「いえ、今は気力が漲っています、早速ダンジョンに行こうと思うのですが」


「なら、シルク、一緒に行っておいで」


 おばあちゃんがママを指名する。


 他にダンジョンに行ける人はいないんだけど。


「わたしは、このギルドの生まれでその子の母親のシルクです、魔法戦士をしています」


「私はサーリャ、攻撃、回復から鍵開けまで一通りのことはできます」


「すごい、さすがエルフだ」


 パパが拍手をする。


 実際、普通の冒険者はひとりで何でもは出来なかった。


「頼もしいですね、それでは行きましょうか」


「はい、それではみなさま、コットン様、行って参ります」


 いつでも戦う準備は出来ているんだろうか。


 ママは簡単な準備を終えると、サーリャとギルドを出て行った。


「さて、コットン、さっきまで話し合っていたんだけど、お前にお願いがあるんだよ」


「どうしたの? おばあちゃん」


 お願いとはなんだろう。


「今日から、コットンに銀の月冒険者ギルドの看板受付嬢になって欲しいんだ」


 受付嬢! 冒険者ギルドの受付嬢!


「わたしでいいの!?」


「もちろんさ、仕事は厳しく教えるからね」


「やったぁ! 大好きおばあちゃん!」


 受付をやりたいということは、前から言っていた。


 でも、10歳まで我慢だと言われていたのだ。


「コットンが受付嬢になったら、お客さんが増えすぎて困ってしまうかも知れないね」


 パパがそんなことを言う。


 あり得ないと思って、そう言っているんだろう。


 でも、わたしには秘策があった。


 今だからこそ出来る秘策が。


「任せてね、おばあちゃん、パパ!」


 まぁ、しばらくはおばあちゃんも一緒だろう。


 今までは、おばあちゃんがギルドマスター兼受付嬢をしていたんだから。


 でも、いつでも助言をもらえるのは心強い。


「ああ、その笑顔で銀の月ギルドを冒険者でいっぱいにしておくれ」


 そう。何と言っても……ここには冒険者がいない。


 この世界は、あれ程賑わっていたダンジョン産業が下火になり、冒険者の数が激減していた。


 この7年でダンジョンの難易度が様変わりし、素人が入れるものではなくなっていたのだ。


 それなのに、ダンジョンからモンスターがあふれ出てくるので、定期的にモンスターを駆除しなければ近隣に被害が出る。


 その代わり、モンスターのドロップやダンジョンの宝は質が上がっていた。


 そう、ダンジョンは危険の坩堝だがリターンの大きいプロ仕様に変わってしまったのだ。


 わたしの作ったダンジョンを勝手に変えたダンジョンマスターめ、ゆるさん。


 でも、わたしの新しいダンジョンライフが、今始まった。


第一部完まで41話を毎日更新します。


よろしくお願いします。

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