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第二十九話 冒険者ギルドの日常


 朝、忙しい時間が終わると、見慣れない男がギルドに入って来た。


 パッと見た目は冒険者なんだけど、なんとなく嫌な感じがする。


 赤い風の人なんだろうけど、どこか怪しい。


 詐欺師とか、そういう方向の匂いを感じる……。


 ギルド内をフラフラした男は、受付にやってきた。


「銀の月で冒険者登録をしたいんだけど?」


 いつもなら大歓迎なんだけど、今回はちょっと違う。


「少しお待ちください」


 鑑定をする。


 職業が盗賊、レベルは22、気持ちは……色々盗みたいになってる……。


「すみません、うちでは間に合ってますのでお引き取りください」


「お、おいおい、なんでだよ? 差別か? 俺が北方民族の出だから、差別するってか?」


「いえ、そんなことは知らないですが、お断りします」


「ちょっとちょっと、それはないんじゃない? まぁまぁ腕も立つよ?」


「本当に間に合ってますので、お引き取りを」


「お嬢ちゃんじゃ話にならないな、誰か大人を連れてきてくれ」


「結果は同じです、帰って下さい」


「あーそう? 銀の月ってそういうギルドなんだ?」


 もう、しつこい。


 なんだかちょっとキモさも感じた。


「そうです、銀の月はそういうギルドなのでお引き取りを」


「ちょっと痛い目を見ないとわからねえかなぁ?」


 男が立ち上がって威嚇する。


 まぁ、スライムが威嚇してるくらいかな?


 そう思っていると、受付の奥からやかんが飛んできた。


「いでえっ!」


 やかんは男に命中して受付の机に落ちる。


「しつこい男だね、駄目って言ってんだからさっさと帰んな!」


「おばあちゃん!」


「ババアとガキが、俺様を舐めやがって……」


 男が短刀を抜く。


 あー、もうー、めんどくさいな。


「抜いたね? 後悔しなさんな」


「あぁん?」


「<ディスプラプターゼロ>」


 おばあちゃんがそう唱えると、空間が湾曲する。


 その中心に男が飲み込まれていた。


「まっ、待ってくれー!!」


 その声もグニャグニャと曲がって聞こえる。


 荒くれ者揃いの冒険者ギルドに、おばあちゃんと子供のわたしだけが残っているのは、こういう切り札があるからだった。


 いわゆるマジックアイテムだ。


 空間に飲み込まれた男は、そのままどこかに消えてしまった。


「まぁ、この辺りのどこかに出られると良いねぇ?」


 そう言って、おばあちゃんはまた奥に引っ込んだ。


 わたしは玄関に塩を撒いておく。


「お嬢ちゃん、いい目してるねぇ」


 酒場で遅い朝食を取っていた冒険者達だ。


「有名なんですか?」


「あいつは手癖が悪くて嫌われてたんだ、証拠がないから掴まえられなかったがね」


 まぁ、そんなところだろう。


 見た感じソロっぽいし、追い返してもまた来そうだったから、どこかに行ってくれて良かった。


「しかし、子供の勘も恐ろしいな」


「女の勘かも知れないぜ」


「おいおい、まだ7歳だぞ」


 そんなことを話している男たちを尻目に、わたしは仕事に戻った。






「ネジルさん、ご飯一緒に食べても良いですか?」


「かまわんよ」


 お昼休憩の時間に、若いパーティーの子達がネジルさんのところに集まっていた。


 訓練していた街の子達は、この時間になると食事をしに家に帰る。


 お弁当を持ってきている子もいるけれども、そこは様々だ。


「あの、冒険の話を聞いてもいいですか?」


 それが目当てか。


 ネジルさんは、ふと遠い目をするけど軽く首を振った。


「昔のことだ」


 格好いい。


 言葉が短くて、もっと聞きたくなる魔力がある。


「そ、それでもいいですから、聞きたいです」


 この子達は今、地下用水路でジャイアントラットを狩っている。


 夢のある冒険譚を聞きたいのかも知れない。


「いくつだ?」


 リーダーの子に歳を尋ねる。


「16です、冒険者になって一年半です」


「仕方が無いな」


「わぁ」


 わかい子達は、かぶりつくようにネジルさんの話を聞いていた。


 なんだかんだ面倒見が良いなぁ。


 若い子は放っておけないんだろう。


 その後も、若い子達はなんだかんだネジルさんに話し掛けるようになった。


 ネジルさんも、嫌ではないようだ。


 こうやって経験が受け継がれていく。


 いいものだと、わたしはしみじみしていた。






 街の子を訓練して、一週間が経った。


 そろそろ適正も見えてくるようで、前衛なのか後衛なのか、それくらいは分けられるようになっている。


 でも、その中にも色々あって……。


「このふたりは適正無しだ、無意味に死ぬこともあるまい」


 ネジルさんはそう言って、ふたりの子を受付に置いていった。


 悲しそうな顔をしている。


 それはそうだろう、仲間内でもバツが悪いし、家に帰ってなんて言えばいいかわからない。


 でも、こういうときのために、決めておいたことがあった。


「では、おふたりにはギルドの仕事を手伝って頂きます」


「え? いいのか?」


「首じゃないの?」


「いいえ、ギルドは忙しいので、首を切る余裕なんて無いんですよ」


 ふたりは顔を見合わせて喜ぶ。


 街に出ても仕事はない。


 兵士になるか傭兵になるか、その二択くらいだ。


「どんな仕事ですか?」


「ギルドの商業部門を手伝ってもらいます、見習い商人ですね」


「良かったぁ、僕、戦うのとか嫌だったんだ」


「俺も、読み書きは出来るぜ、商人の方が性に合ってる」


「はい、頑張って下さい」


 パパに引き合わせて、今日から見習い商人になってもらった。


 モンスターの解体やアイテムの鑑定、それを売りに行ったり、売ったお金で物を仕入れたり。


 年上の子がハダン君で、ちょっと勝ち気。


 年下の子がモルソー君で、ちょっと弱気。


 ふたりの商人人生が、今日幕を開けた。


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