第二十六話 採取部隊
朝起きて、顔を洗って、身だしなみを整えて、気合いを入れる。
「よし!」
家族のスペースは3階にあるので、1階に下りていく。
早朝は誰もいない。
酔って寝ている人はいるけれども。
窓を開けて、玄関を開けて、掃除をする。
これが朝一番のわたしの仕事だ。
もうすぐ、クエストのゼンネル兄ちゃんが来るだろう。
その前に、受付の周りを整理する。
お金を管理しているボックスがあるけれども、これには防犯機能が取り付けられていた。
おばあちゃんか、ママかパパ、そしてわたしじゃないと開けられない。
もちろん、持って逃げることも出来なかった。
物販コーナーは、品物の置いてあるところを柵で遮断してしまう。
強引に盗もうと思えば盗めるけれども、高額商品はショーケースの中に入れて盗れないようになっていた。
そして、掃除が終わる頃、ゼンネル兄ちゃんがやってくる。
今日から、新しいクエストが入っていた。
地下用水路に沸くジャイアントラットの討伐だ。
どうも数が増えているらしい。
でも、ジャイアントラットの肉は値段が安いので、行く人は少ないかも知れない。
そして、酒場の人がやってきた。
夜遅くまでやっていた人は遅番で、朝早くやってくる人は早番だ。
みんなの朝食を作る若いコックさんが、竈に火を入れる。
野菜を切る音。
卵を焼く音。
そして、ギルドで宿を取っている冒険者が下りてくる。
1番は、大体ルルーナだ。
お腹を空かせて、朝ご飯を注文する。
街に家のある人や、パーティーでアパートを借りている人、どこかに宿を借りている人、色々いるけど、ギルドに泊まる人がなんだかんだ多かった。
フラニールさんのパーティーや、元竜の髭の人達が加わって、ギルドも活気づいてきた。
元々赤い風にいた人が多いから、みんな顔なじみだ。
エリシャは、冒険と練金を半々でやっている。
ルルーナと仲良くなっているみたいで良かった。
「あの、コットンさん」
「わたしのことは、呼び捨てで良いですよ」
「でも……」
エリシャは、人との距離の詰め方に戸惑いがあるみたいだ。
7歳のわたしに、さん付けはちょっとおかしい。
「いいですから」
「じゃあ、コットンちゃん」
「はい、どうしましたか?」
「錬金術の素材を買い取りたいので、依頼を出したいんですけど……」
なるほど。
自力で集めるのは、さすがに無理だ。
「何が欲しいですか?」
「えと、ですね……」
「ふむふむ」
エリシャの依頼は、結構多岐にわたった。
これはちょっと、エレンさんだけじゃ集められないな。
モンスターの素材は、他の冒険者から。
自然物の採取は孤児院の子にしてもらおう。
でも、薬草だけじゃなくて、鉱物とか昆虫とかもあるのか。
ちょっと聞いてみよう。
「エレンさんは鉱物とか生き物の採取もいけますよね?」
「おう、いけるぜ」
「じゃあ、そっちもお願いできますか?」
「どんな要望だ?」
依頼を受けたメモを見せる。
すると、エレンさんはちょっと難しい顔をした。
「孤児院の子を増やせないかな。今は、十二歳以上の子を連れてきているらしいけど」
「どうなんでしょう……」
エリシャの依頼は、これから先もずっとつづくだろう。
今回だけ何とかなっても、あんまり意味はない。
「コットンが七歳なんだから、七歳以上でいいだろ?」
いいのかな?
万が一のことがあったら困るし……。
「今やってる子はもう慣れてきてるから、薬草採取なら引率も出来そうだぜ」
「でも、まだ経験二週間くらいですよね?」
「森の中を歩くなんて、そんなに危険じゃないんだよ、オレなんてコットンより小さい頃から歩いてたし」
「うーん」
わたしが困っていると、サーリャが助け船を出してくれた。
「コットン様、孤児院の院長に出来そうな子を選抜してもらいましょう」
サーリャ。
なんか、責任を違うところに移しているみたいでバツが悪い。
でも、他に解決方法も思い付かないし……。
「じゃあ、それで頼むぜ」
「承知しました、今から行ってきますので少しお待ちを」
「あっ……」
わたし決断力低い。
おばあちゃんに相談するとか、何か自分で決断すれば良かった。
でも、一時間もしないうちにサーリャが戻って来る。
その後ろには……二十人の子供がいた。
「孤児院の院長に選抜してもらいました。カゴは私からのプレゼントです」
みんなカゴを背負っている。
そして、稼げることを知っている子供たちは、みんなキラキラとした目をしていた。
「新しく入った奴らは、こっちの慣れてるキュールに引率してもらう」
「出来そうですか?」
「いつもの森に行って、毒のある草に気をつければ良いんでしょ? 出来るよ」
キュールは十二歳くらいの元気そうな男の子だ。
わりと利発そうでもある。
「死ぬような草は少ないから、茸は絶対に触らなければ大丈夫だぜ」
「うん、わかった」
キュール少年が、ちょっと熱を帯びた瞳でエレンさんを見る。
このおませさんめ。
惚れちゃったのかな?
「みんな、ふざけたりしないで、ちゃんと言うこと聞けますか?」
「はーい」
「大丈夫だよ」
「言うこと聞く」
うーん、心配は尽きない。
「コットン、今日は、ママも一緒に行くわ」
「ママ」
「僕も良いよ」
ママのパーティーが、今日は採取となった。
様子を見てもらって、ふざけちゃう子とかをピックアップしてもらおう。
「じゃあ、慣れてる奴は、ナイフとハンマーを買ってきてくれ」
「ギルドに売ってるけど、使うの?」
「ナイフは色々な採取に使う、ハンマーは鉱物に使う」
「も、森に崖があるから、そこで鉱石が採れるのよね?」
そうか、じゃあ……。
「お金無いです」
「みんな無いよ」
あら、毎日の稼ぎは院長さんに渡しているみたいだ。
「コットン、出してやんな」
「おばあちゃん!」
おばあちゃんは、どこから話を聞いていたのか奥から顔を出した。
孤児院の子を増やすのは、特に反対じゃないみたいだ。
「何かを始める準備には金がいるもんさね」
「うん、わかった」
三十人の採取部隊ができるとなれば、すごい利益だろう。
わたしは、ギルドにあるナイフとハンマーを孤児院の子に渡した。