第二十四話 フラニールの偵察
夕方頃になると、エリシャに下りてきてもらった。
自分の部屋にずっといると、友達として紹介できない。
「練金は出来ましたか?」
「は、はい、ひさしぶりにガツッと出来ました」
「お願いした物もありますか?」
真名魔法で使う触媒をお願いしたんだけども……。
「頑張って作りましたよ」
ドンと袋をひとつ渡された。
中には、触媒がいっぱい入っている。
「こんなに!」
「すごく頑張ったので、いい物が出来たと思います」
ざっと鑑定すると、質がかなりいい物ばかりだ。
やっぱりエリシャは凄腕の錬金術士だなぁ。
わたしは、エリシャとおしゃべりをしながら売店に並べていく。
みんな帰ってきたら買ってもらおうか。
「ふぅ、やっと帰ってこられたぜ」
扉から男たちが入ってくる。
「エリシャさんは、ちょっと待っていてくださいね」
「はい」
帰ってきた冒険者の清算を行う。
クエストや依頼などをこなしてきた冒険者達は、お金を受け取ると酒場に向かった。
「コットン、変わりはなかった?」
「ママ!」
帰ってきたママにハグしてもらう。
一日の疲れが吹き飛びそうだ。
「あのね、新しい冒険者のエリシャさん、錬金術士で、すごい触媒を作るんだよ」
「え、え、エリシャさん、よろしくね」
「よ、よ、よろしくお願いします」
似たもの同士の二人が挨拶すると、変な感じだ。
「ルルーナだよ、よろしくね!」
「よ、よろしくお願いします」
「ルルーナは13歳で歳が近いから、すぐ仲良くなれるよ」
サーリャが触媒を手に取っている。
すごさがわかるだろう。
「本当にすごい触媒ですね、信じられないくらいの一品です」
「わ、わかりますか! 火トカゲの尻尾は木の皮が主原料なんですけど、ルビーの粉を混ぜるのがコツでして……」
得意なことを早口で語るこの感じは、職人っぽさがある。
サーリャは平然と受け止めているけれども、ママはちょっと微笑んでいた。
そこに、フランセスのパーティーが帰ってくる。
「ただイマかえりまシタ」
「お帰り、ガブリー」
「疲れましたわぁ」
「フランセスは頑張りましたね」
メアリーに撫でられて喜んでいる。
「フランセス、今日から冒険者になったエリシャだよ、お友達になってね」
「え、え、エリシャです、錬金術士をしています!」
「機械じゃないんですのねぇ」
「フランセスはアホだから気にしなくて良いよ」
「アホじゃないですぅ!」
ルルーナに突っ込まれて、フランセスが憤慨している。
知恵は高いんだけど、なんでこうなんだろう?
「あ、あの、みなさん、よろしくおねがいします」
「緊張しなくて良いよ、一緒にご飯を食べよう」
ルルーナが酒場の方に連れて行く。
みんなも、酒場の方に歩いて行った。
「みなさーん、一流の錬金術師の方が今日から入りました、真名魔法使いの方は触媒を見てくださーい」
「ほう」
魔法使いの人達が、売店の方に集まっていく。
「すごい、これが火トカゲの尻尾?」
「これは、麒麟の角じゃないか?」
「すさまじいな、これいくらなんだ?」
なんか、すごい盛り上がっている。
エリシャは気が気ではないように、ハラハラとしていた。
「あなたが作ったの?」
魔法使いのお姉さんに聞かれている。
「ひゃ、ひゃい、作りました」
「すごいわね、私も錬金術に興味があるの、今度教えて?」
「ひゃ、ひゃい!」
エリシャは、一躍、真名魔法使い達の人気者になった。
翌日、ママと同じパーティーに入って、エリシャは出かける。
レベルが高いから、すぐについていけるだろう。
ルルーナとも仲良くなれるだろうし。
錬金術も頑張って欲しいけど、冒険者としても頑張って欲しい。
それだけの可能性を秘めた逸材だった。
「ん?」
お昼過ぎ、フードで顔を隠したふたり組みがやってくる。
見慣れないふたりだ。
旅の人で、美味しい噂を聞いてご飯を食べにやってきた、という風には見えない。
軽装だからこの街の人だろう。
でも、なんでそんなにフードを被っているんだろう?
なんか怪しいので鑑定。
「あ……」
すると、その人は噂のフラニールさんだった。
今は赤い風にいるけど、前は他の冒険者ギルドの跡取りで、人望が厚い。
そんな話を聞いているフラニールさんだ。
相方は真名魔法使いなので、こっちの触媒の様子を見に来たかな?
フラニールさんも魔法戦士みたいだから、この人も触媒がいるんだろう。
昨日の今日で耳の早い。
もう噂になっていることは嬉しいけど、さてどうなることやら。
なるべく目で追わないようにしながら観察する。
まずは、酒場の方に行って食事を始めた。
元赤い風のメンバーに見つからないように、フードを被ってきたのかな?
今のところ、話し掛けられたりはしていない。
そして、今日のランチを頼んで、その美味しさにびっくりしていた。
割とリアクションが大きな人で、悪い人じゃないように見える。
そして、食事が終わるとアイテム売り場を見始めた。
また驚いている。
わたしは、そこで近づいていった。
「いらっしゃいませ、触媒をお探しですか?」
「ああ、ずいぶんと質がいいんだな」
「真名魔法を使う方ならば、オススメですよ」
「こんなものをどこで手にれている?」
「うちの錬金術士が作っているんですよ」
「所属しているのか?」
「はい」
ふたりは頷き合っている。
事前に、ある程度の打ち合わせはしてあったんだろう。
「譲ってもらうことは出来るか?」
「すみません、数が少ないので、ギルド員限定です」
「そうか、残念だ」
また頷き合って出て行こうとする。
ここは、引き留めた方がいいか。
「あっ、待ってください、お試しと言うことでふたつお譲りしますので、試してみてください」
「そうか、悪いな」
「いえいえ」
火トカゲの尻尾をふたつ売ると、フラニールさんはギルドを出て行った。
さて、どうするのかな?
様子を見に来ただけなのか、何か目論見があるのか。
いい方に転がるといいなと思いつつ、わたしは受付に戻った。