第二十三話 エリシャ登場
思ったよりも錬金術士が早く作成できたので、まだ昼前だった。
すると、ギルドの中に誰か入ってくる。
つば広のとんがり帽子を被った女の子だ。
この子が錬金術士かな?
それとも冒険者登録?
普通に、ハチさんのお昼狙い?
「…………」
女の子は、わたしを見て近くに寄ってくるけど、無言のままだった。
「あっ……ひゃっ……」
いや、なんか変なことをしゃべっている。
言葉が通じないのかな?
「どうしましたか?」
わたしの方から話し掛けてみる。
「す、すみま……せん、ひさしぶり……しゃべったので、声が出なかったです」
「そ、そうですか……」
わたしは、厨房からコップとお水を持ってくる。
それを女の子に渡した。
「ひゃ……ひゃりがとう……ございます」
かわいい子なのに、なんかかわいそうな感じだ。
コップのお水を、クーッと飲んでいく。
「はぁ、はぁ……すみません……ここが、銀の月冒険者ギルド……ですか?」
「はい、ここが銀の月冒険者ギルドです」
お昼狙いでは無さそうだ。
この感じ、この子が錬金術士かな……?
「…………」
でも、そこから話が出てこないみたいで、もじもじしている。
「緊張しないでください。わたしは、受付嬢のコットンです」
「あ、あの、エリシャです……」
「冒険者として登録ですか?」
「…………」
また、もじもじしている。
この子が錬金術士で間違いないかな?
秘境の奥地で育ったらしいから、ママをこじらせたみたいな性格になっちゃったんだ。
まぁ、鑑定をすれば一発でわかるんだけど。
「じゃあどうぞ、冒険者登録をしてください」
女の子の顔が、パッと明るくなる。
やっぱり、冒険者登録したかったみたいだ。
「あ、あ、あの、荷物が……ありまして」
もじもじしている。
そういえば、500年物の練金釜があるんだっけ。
外に見に行くと、大八車に釜が載せてあった。
そんなに大きくないけど、ひとりでは運べないだろう。
「じゃあ、一緒に持ちましょうか」
「は、はい!」
身長が違うから持ちにくいけど、なんとか二階の部屋まで運んでいく。
マジックバッグを使えば良かった。
「じゃあ、エリシャさんはこの部屋を使ってください」
「ひゃ、ひゃい!」
「前後しましたけど、冒険者登録ですね」
一階に下りて、受付で冒険者登録をした。
必要事項を書いてもらって、冒険者プレートを発行する。
「このプレートは身分証明書にもなりますから、無くさずに持っていてくださいね」
「はい……」
なんか、まだもじもじしている……。
そうか、友達が欲しいんだっけ。
「エリシャさんと歳の近い子もいますから、すぐ仲良くなれると思いますよ」
パッと顔が輝く。
「そうですか、嬉しいです」
普通にしゃべっているとかわいい。
また赤い風から男たちを引き抜けないかな。
「エリシャさんは、魔法使いですよね」
「そ、そうです、あんまり強くはないと思いますけど」
いや、真名魔法Sで62レベルだ。
滅茶苦茶強い。
「すぐ働きますか?」
「い、いえ、ここに来るまでに面白い練金素材をたくさん見つけたので、今日は錬金術をしようと思います」
「エリシャさんは、真名魔法用の触媒を作れますか? あれば買い取りたいんですけど」
「はい、いいですよ」
荷物をごそごぞとすると、いくつか触媒を出してくる。
「うーん」
鑑定をしてみる。
すると、火トカゲの尻尾が火竜の尾になっていた。
これだけで、火系の魔法が何倍にもなりそうだ。
「すごいですね、余分があれば全部買い取りたいです」
「今日は錬金術をしますので、後で持ってきます」
「良かった、もうそろそろお昼なので、ご飯を食べませんか? うちのご飯は美味しいって評判なんですよ」
「は、はい!」
受付の方を気にしながら、酒場でお昼ご飯を食べる。
「だ、誰かとご飯を食べるのは、すごくひさしぶりです」
そうなんだ。
どこから旅をしてきたのかとか、たわいないことを質問すると、すごく嬉しそうに話してくれた。
さびしがり屋さんなのかも。
「美味しいです!」
「良かった」
ご飯も格別に美味しいので、エリシャさんは、ここを気に入ってくれたみたいだ。
「あの、その……」
また、もじもじとし始めた。
友達になって欲しいのかな?
わたしの方から切り出す。
「せっかくですから、お友達になりましょう」
「は、はい、はい! 私、お友達が欲しかったんです!」
嬉しそうだ。
良かった良かった。
お昼を食べ終わると、エリシャさんは部屋に籠もってしまった。
錬金術をすると言っていたからね。
そして夕方になるまで、部屋から出てこなかった。