第二十一話 それぞれの成果
夕方に差し掛かる頃には、冒険者が帰宅し始めていた。
夜になると、夜行性の強力なモンスターが現れるので、特に理由がない限りは日が暮れる前に帰ってくる。
もっとも、それはダンジョンに限った話で、普通に隣町まで行くのに夜営しても問題はない。
新月の沼地くらいになると、夜にゴーストが現れるので、みんな避けたいところだとは思うけど。
「コットン、ディープトードを狩ってきた人達は解体の方に回してくれ」
「うん、わかった」
パパが解体所の方で待っている。
昼間も忙しそうだったので、本格的に見習いを雇う時期が来たのかも知れない。
「よう、帰ったぜ、ディープトードが大量だ!」
「ディープトードの解体は、パパのところに行ってくださーい」
解体所でマジックバックを開けると、でっかいカエルがいっぱい出てくる。
見た目が悪いモンスターは美味しいという法則があるんだけど、まさにディープトードはキモくて美味しいモンスターだった。
これを、ハチさんがどう調理するのか楽しみでもある。
「はい、これ」
「ありがとうございます」
解体所でディープトードを預けてきた人達が受付に来る。
パパからメモを渡されていて、何体預かったかがわかるようになっていた。
「ディープトード8体ですね、一体銀貨20枚ですので、銀貨160枚のクエスト報酬になります」
「やっぱり、クエスト様々だな!」
「これに解体の料金が入るんだから、いい儲けだぜ!」
「解体の方は、ギルドで買い取りますか?」
「そうしてくれ」
「では、一体銀貨8枚ですので、銀貨64枚になります」
「こりゃしばらくは、ディープトード狩りで良いな」
「新月の沼地は足下が濡れるんだよな」
「なんだ、水虫か? 神殿に行って来い」
ディープトードは一体100キロくらいで、可食部が50%くらいだ。
肉の価値としては、1キロ銅貨60枚ほどなので、一体で銀貨3枚になる。
残りの銀貨5枚は皮にあって、この皮が耐水用のマジックアイテムの重要な素材になった。
食糧も、まだまだ安定供給されていないので、食べられるモンスターは街の人も大歓迎だ。
と、新月の沼地に行った人達は、割とホクホクだったんだけど、真祖の洞窟に行った人達は苦戦しているようだった。
「思ったよりもヴァンパイアオークが多い、もう少し聖水を多く持った方がいいだろう」
「そうなんですね、ありがとうございます」
ヴァンパイアオークは、倒したときに出る灰の量が多いので、そこにかける聖水がたくさん必要だ。
人間サイズのヴァンパイアと比べると、灰になる量は多分倍近くになるだろう。
新月の洞窟の方は、ベテランが行くことが多いので、銀の月からはあまり行く人が多くない。
ゼンネル兄ちゃんに報告だな。
今は、ヴァンパイア一体金貨一枚になっているけど、割に合わないと感じる人が多くいそうだ。
ちなみに、ヴァンパイアは倒すと灰になるので、その灰を持って帰ってもらって、討伐数を確認する。
これを誤魔化したりすると、ギルドとの関係が悪くなるのでやる人はあまりないけど、ちょっと注意してやる必要があった。
「真祖の洞窟に、オークのコロニーでも出来てたか?」
「あり得るな、面倒になって真祖がオークのボスを眷属にしたりとかな」
そんな話を聞いていると、黄金都市の調査に行っていたママが帰ってきた。
黄金都市はわたしが作ったダンジョンじゃない。
でも、元々あった地底王国の都市を利用して、少し弄られているかもしれなかった。
だから、どんな危険があるかわからない。
「ママ、お帰りなさい!」
「ただいま、コットン」
ぎゅーっとハグしてもらう。
脳が幸せな何かに包まれた。
「大分マップを埋めてきたわ、後で調査書を書くからね」
「うん!」
「ドラゴンいなかったよ、戦いたかったのにな」
「ルルーナはドラゴンを甘く見ていると忠告します」
ドラゴンを仕留めたらお祝いだ。
食べるところも素材になるところもたくさんで、ドラゴンを倒したら、それを退職金代わりに引退する冒険者がいるくらいだ。
「ドラゴンのステーキ美味しそうなんだよなぁ」
ルルーナは、お金よりも食い気らしい。
でも、ドラゴンは本当に美味しかった。
モンスターの頂点といわれるだけはある。
味の方面でも、他の追随を許さない魅力があった。
「後ね、真祖の洞窟の方が苦戦しているの」
「では、明日はそちらに行きますか」
「そうね、ルルーナの訓練にも良さそうだし」
「ヴァンパイアは食べるところがないよー」
うちのエースパーティーは流石だ。
真祖を倒してしまうんじゃないかというくらい、余裕を見せている。
ちなみに真祖はわたしが作ったモンスターでお気に入りだから、倒して欲しくない。
まぁ、そう簡単には倒せないけど、
「帰ったよぉ」
クタクタの声でフランセスがやってきた。
フランセスは、オークジェネラルがいた新しいダンジョンの調査に行っていたはずだ。
「どうだった?」
「大分捗ったけど、私にはキツいよぉ」
「なかなか強力なダンジョンのようデス、50レベルほどに設定した方がいいカト」
「50レベル!」
近くにいた冒険者達が、ヒソヒソと話し始める。
50レベルのダンジョンともなれば、正に一攫千金のお宝をゲットできるかも知れない。
上手くモンスターに出会わないように立ち回れば、宝箱のひとつでも持ち帰れるかも知れなかった。
「これは、すぐに領主様に報告した方がいいね」
「そうデスネ、不用意に入ると危険だと思いマス」
「ガブリーは明日もそっちに行く?」
「早く全容を解明下方がいいでショウ」
「そうだね、そうしてください」
「報告書イヤだなぁ」
ブチブチ言っているフランセスを連れて、解体所の方に行く。
そこに、でっかいワイバーンが出された。
ワイバーンがいるのか、新しいダンジョンは結構広い空間なんだね。
「うおっ、ワイバーンじゃねえか」
「ありゃ、大物だな」
ルルーナに、ステーキを食べさせてあげられるかも知れない。
そこに、ゼンネル兄ちゃんがやってきた。
「今日の成果はどうだい?」
「ディープトードが47体、レッサーヴァンパイアが21体だよ」
「レッサーヴァンパイアが少ないな」
「明日は、レッサーヴァンパイアの方に戦力を割く予定だけど、ヴァンパイアオークが多くて、みんな苦戦してるの、報酬をもっと上げてもらえないかな」
「そうだな、ちょっと相談してみるよ」
「あと、黄金都市の報告書があるから、明日取りに来て」
「おっ、領主様が喜ぶぞ、ヴァンパイアの報酬も上げてもらえるかもな」
冒険者のなり手が少ないから、儲かっているところを宣伝したい。
依頼で村に行ったときとかに、羽振りの良いところを見せれば、上手く若者の心を掴めるだろう。
「あとね、新しいダンジョンは、50レベルくらいの想定になったよ」
「50レベル! かなりの難易度だな」
「うん、早く共有した方が良いかなって」
「わかった、報酬は明日持ってくるから」
「ちなみに、あれが成果みたい」
解体所のワイバーンを指さす。
「ワイバーンか、確かに簡単な場所じゃ無さそうだ」
「こんなところかな」
「よし、わかった」
明日、お金を持った冒険者組合の人が来るだろう。
そこで、立て替えていたクエストの報酬をもらう。
「じゃあ、よろしくお願いね」
「じゃあな」
わたしは、返ってきたマジックバックを洗うと、ご飯を食べた。