第二十話 レッサーヴァンパイア
しばらくして、妖精さんに同調するとなんだか暗かった。
まだ神官さんのバックの中にいるんだ。
わたしは、半分同調しながらギルド内の仕事をしていると、急に視界が明るくなる。
外に出たんだ。
受付の椅子に座って同調すると、そこはもう洞窟の中だった。
「ホリーシンボルはどうやって使うんだ?」
「女神様のメダリオンを掲げると、知能のあるアンデッドは怯えます」
神官さんが、ホーリーシンボルの使い方を教えているところだ。
ヴァンパイアと戦うのが初めてだから、あんなに自信満々だったんだな。
強さがわかっていれば、無理はしなかっただろう。
「なので首から提げて下さい」
みんな首から提げる。
「聖水はとどめに使います、ヴァンパイアが倒れたら聖水をかけてください」
「よし、大体わかったぞ」
なんか不安だ……。
大丈夫なんだろうか?
レールさんたちは、真祖の洞窟を進んでいく。
すると、行き先がY字路になって別れていた。
すかさず、スカウトの人が聞き耳を立てている。
「右から戦う音が聞こえてくるな、左は何も聞こえない」
「じゃあ左に行こう」
みんな頷く。
一応、意思疎通はしてるんだ。
気になって、冒険者登録のメモ帳を見てみる。
すると、レールさんのパーティーは村から出て来た同郷の仲間で、小さな頃から一緒に過ごしてきたと書いてあった。
いや、わたしが書いたんだけど。
そういえば、そんなことを聞いた気がする。
お互いのことは良くわかっているという感じか。
「来るぞよ」
妖精さんがそうつぶやく。
すると、通路をヴァンパイアオークが1匹歩いてきた。
普通のオークよりも耐久力が上がって、かなり強い。
みんな臨戦態勢になる。
戦士ふたりが前衛で、魔法使いと神官が後ろ。
スカウトはホーリーシンボルを掲げている。
「ウウウウッ、オオオォォォ」
すると、ヴァンパイアオークはホーリーシンボルに怯えた。
ここまでは想定通りだろう。
「なんだ、余裕じゃないか」
レールさんが軽口を叩くと、少し場の空気が軽くなった。
「いくぞっ!」
レールさんが剣で攻撃する。
でも、レベル差なのか軽くかすっただけで、あまりダメージを与えられない。
それを見た神官さんが、もうひとりの戦士の武器に魔法をかけた。
「ホーリーウェポン」
「いくぜええっ!」
レールさんよりも大きな両手剣を持った戦士が斬りかかる。
「グオオッ!」
すると、その攻撃はかなり効いていた。
肩から袈裟切りにされて、オークが血を流す。
アンデッドじゃなければ戦意を喪失しているだろう。
「俺の武器にもかけてくれ!」
「ファイアボルト!」
「ガアアァァッ!」
オークの衣服に着火する。
炎のダメージと相まって、かなり効いていた。
「よし、いけるぞ!」
「ガアァァァッ!」
そのとき、オークが手を上に挙げて魔法を使った。
ショックウェーブだ。
範囲内の生き物がスタンする。
「うっ、お、オークが魔法を使うなんて……」
みんなスタン状態で、その場にうずくまる。
これはまずい、すごく危険な状態だ。
「油断しおってからに」
でも、妖精さんだけはレジストしていた。
流石の貫禄だ。
「ホレ見たことか、これで全滅じゃぞ?」
「ううっ……」
スタンしていて、言い返すことも出来ないようだ。
「ターンアンデッド」
「オオオオオオオォォォォッ……」
ターンアンデッドで、ヴァンパイアオークが成仏する。
妖精さんの女神魔法は、確かSだ。
まさに、レベルが違うというところを見せつけた。
「モンスターが瀕死になると凶暴状態になることは知っておるな? ちまちまダメージを与えると危ないんじゃよ」
「くっ……」
妖精さんは、神官さんを状態異常回復させる。
「あ、ありがとうございます予言者様」
「ふたりで手分けするぞよ」
スタン状態で、敵が来るとまずい。
まずは、状態異常を回復させていった。
「敵は……?」
レールさんが、スカウトさんに聞く。
スカウトさんは、地面に耳を当てて音を聞いていた。
「近づいてくる音はない、今のところは大丈夫だ」
「そうか、どうする?」
レールさんが、みんなに聞く。
「帰るべきね、本当だったら死んでいたわ」
魔法使いさんは、冷静にそう言った。
「どうだ?」
みんなも頷いている。
「まだ早かったな」
「そうだな」
反省はしているようだ。
まぁ、死ななくて良かったよ。
「受付が言っておったじゃろう? まだ無理じゃと」
「今度から忠告は聞くことにするよ」
「小さいけど、冒険のことは私達より詳しいはずよ、生まれてからずっと見てきたでしょうから」
「そうだな」
レールさんは、帰ろうと言って出口に向かって歩き始めた。
「おかえりなさい」
素知らぬふりをして、そう言う。
まぁ、こんなに早く帰ってきたんだから察しは付くけれども。
「すまなかったな、オレ達にはまだ早かったようだ」
「ご無事で何よりです、今度は気をつけて下さいね」
「ああ、わかったよ」
パーティーが酒場の方に歩いて行く。
これから反省会か、作戦会議か。
なんにしても、ひとつ成長したと思うので良かった。
「ふあぁぁぁ~、寝るかの」
「お休みなさい、妖精さん。それと、ありがとうね」
妖精さんが面倒そうに手を振る。
なんにせよ、妖精さんのファインプレーだった。
わたしだけで、レールさんを止められていたかわからない。
今日のところは感謝しつつ、仕事に戻った。