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第二話 ダンジョンマスター


「お前がダンジョンマスターか?」


「は?」


 黒ずくめの男が、突如玉座の間に現れた。


 確かに、わたしは世界のダンジョンを制するダンジョンマスターだ。


 そう名乗ったことはないけれども、部下からもそう呼ばれている。


「マスター!」


 わたしと男の間に、腹心である、千年生きたハイエルフのサーリャが割って入った。


 いざというときは盾になるつもりだろうけれども、このサーリャは滅茶苦茶強い。


 そう簡単に、わたしを害することはできないだろう。


「思ったよりも若くてきれいな女じゃないか、俺はロリコンじゃないが、殺すのが惜しくなるな」


 ロリ……なんだって?


 ここの玉座の間には、簡単にたどり着けない。


 膨大な数のモンスターや設置されたデストラップ、警報、結界、仕掛け、etc……。


 いや、そもそも違う次元に作られたこの部屋に人間が近づくことは出来ないはずだった。


「何者だ!」


 サーリャが誰何する。


 ダンジョンマスターの腹心だけあって、到底人間が勝てる相手ではないのだが、嫌な予感がした。


 サーリャも、それはわかっているようだ。


「念のため、脱出する」


「マスター、ここはお任せを」


 いざというときのため、脱出するギミックも設置してある。


 そういうのが好きじゃないと、ダンジョンマスターなんてやってられない。


「どこへ行く? まぁ、逃げることなんて出来ないんだがな」


 男が腕を上げる。


 わたしは、脱出のギミックを作動させた。


 いや、作動させようとした。


「なっ!?」


 おかしなことに、わたしは、驚愕するサーリャの顔を見ていた。


 サーリャは、わたしの前にいて、今の今までその背中を見ていたはずだ。


 なのに、どうしてその顔を正面から見ているのか。


 でも、それはすぐに判明した。


 サーリャの後ろには……崩れ落ちる自分の半身、血しぶきを上げる胴体、つまりわたしの首から下が見えている。


 つまり、今、わたしの頭がどうなっているのかと言えば……。


「マスター!」


 そこでわたしの意識は途切れていた。






「ダ……スタァ」


 遠くから声が聞こえる。


 慈悲深い、耳に残るような愛情溢れる声だ。


「ん……」


 気が付くと、わたしはまばゆい光の中にいた。


 すぐ近くには、渦のような螺旋の光があり、そこに混ざりたいと本能が訴えかけてくる。


「ダンジョンマスターよ、気が付きましたか?」


 今度は声がハッキリと聞こえる。


 わたしの目の前には、いかにも本物っぽい女神様がいた。


 ランクの高いモンスターにも女神っぽいのはいるのだが、全く違う偽物だと実感できる。


 これは、本物の女神様だ。


「あなたは……」


「私は、輪廻を司る女神アニエルです」


 輪廻……そうだ、わたしは死んだんだ。


 時間がどれくらい経っているのかはわからないが、感覚的には、ついさっき死んだ感じだ。


「死んだ者の魂はこの螺旋の中に溶け込み、新たな命となるのですが、他の神々の提案で、あなたを転生させることになりました」


「転生……? 生き返るのですか?」


 やり残したこと……それはたくさんある。


 もっとダンジョンを育てたかったし、もっと格好いいモンスターを生み出したかった。


「戦乱のつづく世界に、あなたの作ったダンジョンは目覚ましい貢献をしました」


「貢献……」


 ああ、そうだ。


 ダンジョンと人間は共存するもの、人間が困っているときは、その助けとなるものでなければならない。


「ダンジョンで採れる肉や野菜は民の腹を満たし、水や薬、はたまた糸や木材、金属まで産出できるようになったのは、あなたの成果です」


 わたしは、ダンジョンに入ってくる人達のことが愛おしくて、そんなことをしていた……。


 もちろん、深層部にお宝もたくさん用意していたけど。


「あなたは、新たな人生をどう望みますか?」


 答えはひとつだ。


「同じ、ダンジョンマスターを……」


「……それは叶いません、今、ダンジョンマスターは別の者が行っています」


 そうなのか……。


 あの黒ずくめの男だろうか。


 わたしからダンジョンマスターの地位を奪ったのかも知れない。


 それなら……。


「ダンジョンに挑む冒険者を育てる者に……」


「あなたのダンジョンに対する愛はわかりました、その願い聞き届けましょう」


「ありがとう、ございます……」


「あなたの新たなる人生に、幸多からんことを」


 あぁ……身体が……魂が……とけていく……。




「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ!」


 目が見えない、息が苦しい。


「ほら、元気な赤ちゃんが生まれたよ!」


「はぁ、はぁ、アナタ……」


「よくやったな、シルク、君に似てとても美人だよ」


「お母さん、抱かせて……」


「しっかりと抱いてやんな、次の銀の月冒険者ギルドの跡取りだよ」


「いいのよ、そんなこと、それよりも元気に育ってね……」


 そこで、わたしの記憶は霞のように消えていった。


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