第十九話 レベル制限
「おっ、クエストが始まったか」
「はい、ディープトードとレッサーヴァンパイアがオススメです」
朝食が終わると、みんな依頼やクエストを確認に来る。
出し抜きたいのか、パンをかじりながら依頼書を眺めるなんて人もいた。
まぁ、まだ人が少ないから、そんなに競争はないんだけれども、人が増えてきたら依頼も増えてくれないと困る感じだ。
「新月の沼に行く方はマジックバックをお貸ししまーす!」
「それはいいな」
狩ったディープトードを持って帰るための収納バッグだ。
見た目の10倍以上収納できるマジックアイテムで、そんなに珍しい物ではない。
「真祖の洞窟は、ホーリーシンボルと聖水のセットがオススメですよ!」
ヴァンパイアの眷属はホーリーシンボルを掲げると怯む。
聖水は、とどめを刺すのに必要だった。
とどめを刺さないと、いつ生き返るかわからない怖いモンスターだ。
弱点が多い代わりに、ヴァンパイアはすごく強い。
ゴブリンがヴァンパイア化したとしても、元の倍は強くなる。
レッサーでそれだから、本物のヴァンパイアなんて滅茶苦茶大変なモンスターだった。
ましてや真祖なんて、とてもじゃないけど相手に出来ない強さだ。
「新月の沼に行かせてもらおう」
「はい、マジックバックはいくつ必要ですか?」
新しく入ったパーティーの人達だ。
確か、リーダーの名前はハリスさん。
ちょっとベテランに片足入れているような人達だ。
賢くて慎重で強い。
こういう冒険者が痺れるんだよな~。
「ふたつでいいかな、もっといけそうならまた明日、増やすことにするよ」
「わかりました、それでは、マジックバックをふたつお貸ししますね」
「ああ、ありがとう」
ざっと鑑定を使う。
パーティーは6人。
戦士がふたり、神官、魔法使い、スカウト、弓使いだ。
平均レベルは36かな。
新月の沼地なら大丈夫だろう。
レベルは、20を超えたら一人前で、どこのダンジョンでも第一層は問題なく歩けるようになる。
ただ、真祖の洞窟はレッサーヴァンパイアが恐らく大量に出るので、30は欲しいところだった。
ハリスさんのパーティーは、ちょっと慎重に行くみたいで、36平均でも新月の沼地でディープトード狩りをするみたいだ。
うーん、渋い。
安全のマージンを取っているみたいで、冒険者っぽくていいよねぇ。
わたしはダンジョンマスターの地位を取り戻したいけど、冒険者の良さもわかってきた気がした。
「真祖の洞窟に行って来るから、アイテムを売ってくれ」
「あ、はい、えーと……」
次のパーティーを鑑定すると、平均レベルが18だった。
まだ無理だ。
丁度初心者を卒業しそうなくらいで、慢心する時期とも言える。
確かこの人は……レールさんだったかな?
「レールさん、真祖の洞窟は危険です、もう少しレベルを上げてからにしませんか?」
「なんだと、俺を馬鹿にするのか!?」
バンと受付の机を叩くけれども、冒険者はそれくらいで動じない。
誰も気にも止めていなかった。
「レッサーヴァンパイアを狩るのは、平均レベルが30からでオススメしてるんです」
「君は、オレ達の平均レベルがわかるのか?」
後ろの人がそう尋ねてくる。
「まぁ、おおよそですがわかります」
「これはおどろいた、オマエら値踏みされているぞ?」
その言葉に、レールさんが睨み付けるが無視されていた。
こんな子供を恫喝するのが格好悪く感じたのか、レールさんは声を落ち着かせる。
「俺達は大丈夫だよ、今、かなり調子が良いんだ」
「うーん……」
どうしよう、このまま行かせたら最悪全滅しちゃう。
「どれ、ワシがついて行ってやろう」
「予言者様!」
レールさんのパーティーの神官さんがそういう。
妖精さんが、こんな朝から起きてくるなんて珍しい。
昨日は大変だったから、今日はずっと寝てるかと思ったのに。
「これが噂の予言者か、丁度いい、予言してくれよ」
「そう簡単に予言なんかせぬ、いいから連れて行け」
窓から入ってくる朝の光を眩しそうにしながら、妖精さんは神官さんの肩に座った。
「妖精さんの腕は保証しますが、どうしますか?」
「この妖精を連れて行くなら、ギルドはOKするんだな」
どうしよう、妖精さんがいれば平均レベルは上がるけど、30には到底届かない。
でも、多分大丈夫かな?
おそらく妖精さんがひとりで倒してしまうだろう。
この人達も、良い勉強になるんじゃないだろうか?
「はい、問題ありません」
わたしがそう言うと、レールさんのパーティーはみんなで頷いた。
「よし、いいだろう」
「じゃあ、ホーリーシンボルと聖水を買って下さい」
少し相談するけど、ここでケチるのは損だと思ったみたいだ。
「人数分くれ」
「では、五セットですね」
わたしは、手元に用意した聖水とホーリーシンボルを出す。
「妖精さんはいる?」
「いらないのじゃ」
「昼間に出かけられるの?」
「神官のバックの中に入っておる、洞窟に着いたら出してくれ」
そう言って、妖精さんは神官さんの荷物の中に入ってしまった。
「俺達が余裕だって、見せてやるからな」
「お気を付けて」
そんな感じで、レールさんたちは出かけて行った。
他のパーティーも思い思いに出かけて行く。
さて、それなら妖精さんに同調しようかな。
出かけない人は、酒場でぐだぐだしている。
毎日は出かけないパーティーも、割といた。
しっかり身体を休めないといけないからね。
ギルド内のことも意識しつつ、妖精さんに同調した。