第十七話 カタコンベのボス
「サーリャ、妖精さんが変身しちゃった!」
「ふむ……かなりの強さですね、人間では太刀打ちできないでしょう」
軽く品定めをするように見ると、サーリャはそう言った。
「ほうぉ、わかるのか?」
サーリャは鑑定を持っている。
それくらいわかるだろう。
「私も一緒に行きましょう」
「えっ、サーリャが?」
昼間に、普通に冒険に行っているのに、無尽蔵のスタミナだ。
「物好きじゃな」
「ボスを倒しに行くんだよ?」
「カタコンベのボスですか?」
「そう、アンデッドは輪廻の女神様に逆らう不逞の輩じゃ、そのボスを倒すことには意味がある」
おそらく、ボスを倒しても、またダンジョンマスターがボスを配置するだろう。
一ヶ月くらい空席になるのがわたしの時代のやり方だ。
まぁ、今はわからないんだけど……。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
「行ってくるぞよ」
「気をつけてね」
サーリャがわたしの耳元でささやく。
「妖精の実力を見てきます、ダンジョンマスターに挑むときに役に立つか見極めます」
そういうことか。
「うん、よろしく頼むよ」
「では」
ふたりは出発していった。
わたしは、受付の椅子に座って同調を開始する。
「んー……わっ!」
妖精さんに同調すると、滅茶苦茶速いスピードで街を駆け抜けているところだった。
それこそ、人間のスピードじゃない。
「なかなかやるのぉ」
「本気を出してもいいですよ」
サーリャもそれについて行っている。
ルルーナやフランセスもいつかこうなるんだろうか。
フランセスは無理っぽいけど、魔法で身体強化すればいけるのかも。
「…………」
ダンジョンマスターに挑む人材を育てる。
わたしは銀の月のことばかり考えていたけれども、最終目標はそこだ。
限られたリソースの中で、しっかり考えないといけない。
そんなことを考えていると、ふたりはカタコンベに到着した。
「カタコンベのボス部屋が見つけられなくてのぉ」
「ボスを倒しに来たということは、見つけたんですね」
「意外なところにあったわい」
カタコンベのボス部屋なら知っている。
何せわたしが作ったんだし。
サーリャは、そんな細かいところまでは知らないだろう。
「ここじゃな」
妖精さんが、階段の途中の壁を手探る。
「私がやりましょう」
「そうか?」
なぜか、サーリャが代行する。
すると、そこには隠しレバーがあった。
「これを引けば良いんですか?」
「そうじゃ。一人のときは大変じゃったわい」
サーリャがレバーを引く。
すると、遠くから軽い震動が響いてきた。
「さて、行くかの」
きれいに区画分けされた墓地が並ぶ。
この墓地は、この街の人達が埋葬している墓地ではないので、本当に人が眠っていたりはしない。
わたしが趣味で作った、ダンジョンの一環だ。
一応、昔使われていたみたいに伝わっているけど、そんなことはなかった。
「49番地区じゃ」
「結構広いですね」
サクッとアンデッドを倒しながら、49番地区へ進む。
そして、49番地区にたどり着くと、墓が一つ暴かれていて階段が見えた。
「この先にいると思うのじゃ」
「思う?」
「ボス部屋の前で帰ったからな」
「なるほど」
階段を下りていくと古めかしい扉があった。
全く使われていないようで、錆が浮いている。
「開けますよ?」
「やってやるわい!」
ふたりが入り込むと、部屋の中には山羊頭の悪魔がいた。
でも、その身体は朽ちていてゾンビ化している。
一応珍しいモンスターで、アスラゾンビだ。
「知らないモンスターですね」
「アンデッドには違いない、やるぞ! ホーリーナイト!」
妖精さんが光の球体を発生させる。
その球体は辺りを吸引して、アスラデーモンを拘束した。
「グオオオオオォォォォッ!」
「やりますね」
スリップダメージを与えながらアスラデーモンを拘束しているところに、サーリャが光の蝶を呼ぶ。
「舞え、幻光の蝶よ」
技名はわからなかったけど、魔法じゃ無くてスキルだ。
2、30匹の光の蝶がアスラデーモンにまとわりついていく。
これも、スリップ系のダメージみたいだ。
「グヲォォォォォォッ!」
アスラデーモンが吠えると、それらが全てかき消えた。
デバフをかき消す咆吼だ。
「駄目か、直接叩いた方が良さそうじゃ」
「アンデッドですから、耐久力がありますよ?」
「女神様の力は、薄汚いアンデッドを引き裂くのじゃ!」
妖精さんが槍を振り回すと、普通の槍なのに白い光跡が見えた。
そして、アスラデーモンをなぎ倒す。
「ウングオォォォォォォォッ!」
戦乙女姿の妖精さんの足下で、ボスが悶絶していた。
信仰の力が乗った一撃だ。
槍をぶちかましたみたいになる。
体重は10倍差以上ありそうなのに、すごい威力だった。
アスラゾンビは攻撃力が高いのに、何もさせてもらえない。
もう、どっちを応援しているのか、自分でもわからなくなっていた。
サーリャはレイピアを抜くと、神速の攻撃を放つ。
一息に10連檄。
これがサーリャの普通の攻撃だ。
アスラゾンビは身体のあちこちを欠損する。
「とどめの一撃を食らうのじゃ! ヴァルキリージャベリン!」
飛び上がった妖精さんの手から杭のような光が飛び出す。
そして、それは地面のアスラゾンビに突き刺さった。
「ゴウェェェェ……」
アスラゾンビが力尽きる。
何もできずに、というか何もさせずに勝利した。
圧倒的な力の差だ。
「あっ」
魔物作成ポイントが戻る。
昔自分が作ったモンスターが倒されると、ポイントが戻って来るようになっていた。
これは、わたしが作ったモンスターだから当然だ。
7年くらい倒されていないモンスターはまだまだ居るだろう。
ポイントは、17822になった。
「属性の相性が良い相手には無敵ですね」
「相性の悪いところで戦わんからいいのじゃ」
サーリャがドロップを確認する。
何をドロップするのか覚えてないや。
「宝もあるようじゃな」
ボス部屋の奥に宝箱がおいてあった。
これは、わたしじゃなくて新しいダンジョンマスターの趣味だ。
ふたりは宝を手に入れると、ボス部屋から立ち去った。
「戻しておきますね」
ボス部屋のレバーを元に戻して、蓋を閉めておく。
これで、またボスが現れた頃に倒しにいけるだろう。
そして、ふたりがカタコンベを出ると、赤い風の冒険者とすれ違った。
こんな真夜中に冒険にでるのか。
カタコンベに行くなら夜の方が効率がいいから仕方ないけど。
「お、おい、あれ」
「な、なんだ……?」
男たちは、戦乙女の神々しい姿を見て興奮しているようだ。
妖精さんは、満更でもない様子で得意げだ。
「おい、あのエルフは銀の月だよな」
「じゃあ、もうひとりも銀の月か」
ベテランらしき冒険者だけど、一目惚れした初心な若者のような目で妖精さんを見ている。
でも、ふたりは黙ってその場を後にした。