第十六話 妖精さんの変身
新しく移籍してきた人達は、妖精さんの件で移籍してきた、神官さんがいたパーティーの人達だった。
元々、そのパーティーで神官をしていたらしい。
冒険者に女神魔法の使い手は少ないので、よりを戻す格好だ。
ここまでされてしまうと、妖精さんと一緒に行動もできないみたいで、カタコンベに行くパーティーは解散となった。
でも、赤い風がこんなことを許すはずもなく……。
「失礼するザマス!」
ほら来た。
インテリ眼鏡さんが青筋を立てて怒鳴り込んでくる。
「おや、なんの用だい?」
わたしでは対応出来ないので、おばあちゃんに変わってもらった。
「おおーっ、うめえっ!」
料理を食べている元ギルド員を見て、インテリ眼鏡さんがぐぬぬっとなっている。
移籍してきた人達を返してもらうみたいな話だろうか。
そんなこと言われても困るというか、どうしようもないんだけど……。
「ぼ、冒険者組合に戻ることを許すざます」
ぼそっと小さな声でそうつぶやいた。
えっ!? それってつまり……。
おばあちゃんの方を見ると、すごく悪い顔で笑っている。
「はぁ? 聞こえないねぇ」
「なっ!」
インテリ眼鏡さんが、カッと頭を沸騰させている。
「聞こえないって言ってるんだよ」
「くっ……ぼ、冒険者組合に戻ることを許すザマス!」
「ふざけんじゃないよ! 領主様に言われてるんだろう!? 銀の月を冒険者組合に戻せってね!」
「ぐ、ぐぬぬぬ!」
頭の血管が切れそうなくらい怒っている。
でも、おばあちゃんはそれを見てほくそ笑んでいた。
「戻ってくださいだろう? 戻せなかったらどうなるんだろうねぇ」
ねっとりとした声でそう諭す。
領主様の言いつけなら、どうなってしまうのか。
お尻ペンペンでは済まないだろう。
「も、も、戻って……くだ……さぃ」
「はぁ!? 聞こえないねぇ!」
おばあちゃんも意地悪だなぁ……。
「戻ってください! 戻ってください! ちゃんと言ったザマスよ!」
「まぁ、いいだろう、戻ってやるさ、ひっひっひ」
「くううぅうぅっ! 覚えてるザマスよ!」
インテリ眼鏡さんがドアを蹴破るように出て行く。
「いい気味さね」
「いいぞ、ばあさん!」
「酒の肴にもってこいだ!」
ギルドの中に喝采が起きる。
冒険者って、これだからなぁ。
ルルーナとかフランセスに悪い影響が出ないと良いけど。
そして、翌々日からクエストが再開された。
「はい、お待ちどうさまー」
「ねえちゃん、こっちにエールおかわりだ」
「こっちも、一杯頼むぜ!」
「はーい、ちょっと待ってくださいねー」
料理が評判になって、酒場が忙しくなった。
今まで暇そうにしていたウエイトレスさんも、忙しくなって嬉しそうだ。
受付も、依頼を受け付けたりして忙しくなったけど、何より冒険者の数がグッと増えた。
たまに、おばあちゃんが出て来て手伝ってくれたりもする。
とはいえ、朝にみんなが出かけて行くと、昼間は割と時間があった。
ハチ料理長は、食材の研究をしたいみたいだけど、今のところはぶっつけ本番で料理を作っている。
中でも、今まで使っていた調味料が独特らしくて、それを作るのに苦労しているらしい。
おばあちゃんと話をして、食材屋さんと打ち合わせている姿をよく見かける。
なんにしても、酒場が繁盛して冒険者の数も増えて、良いことずくめだった。
最近は、夜遅くまで飲んでいる人がいるので、酒場を閉めるのは真夜中だ。
受付業務は終わっているので、わたしは夜になると寝てしまう。
コックさんとウエイトレスさんが家に帰るときに扉を閉めてもらっていた。
「これ、起きるのじゃ」
「うーん、誰……?」
夜中に誰かに起こされた。
機械兵のふたりが夜中に警備してくれているから、不審者は近づけない。
「ワシじゃワシ」
「ん……妖精さん?」
寝ているところを誰かに起こされると、そこには妖精さんがいた。
妖精さんは、パーティーがちりぢりになってしまったので、今は一人で行動している。
「パワーが溜まったから、変身してボスを倒してくるのじゃ」
「え? 変身? ボス?」
「槍と鎧をくれ」
わたしはベッドから起き上がる。
なんだか、妖精さんからやる気みたいなオーラが出ていた。
いつもダウナーな感じなのに、珍しい。
「妖精用の槍なんて無いよ?」
「人間用でよいのじゃ」
それならあるけど……。
わたしは、パジャマのまま一階に下りていく。
「もう、我慢できん!」
「えっ!?」
妖精さんは、光り輝くと手足が伸びて身体のパーツが大きくなって……人間サイズに変身していた。
そういえば、スキルに変身ってあったような気がする。
「女神様に仕える戦乙女じゃ、大物を倒してレベルを上げないとのぉ」
「戦乙女って、すごい高ランク職だよ!?」
「ふふん、まぁ、そういうことじゃな」
金髪の頭に、青いカチューシャみたいなのを着けて、あとは白い薄手の服だけだ。
わたしは、普通の槍と胸当てを渡す。
「ふむ、では、これを借りるぞ、朝までには戻って来るから待っておれ」
「何をしているのかと問います」
「サーリャ」
二階から下りてきたのは、サーリャだった。