第十五話 ハチさんの料理
「おい、ミックス」
ルルーナと同調していると、ダンジョンの入口まで一緒だったミックスさんたちが、赤い風の冒険者に捕まった。
「おう、ナンデラ、久しぶりだな」
「誰?」
「昔仲の良かった赤い風の奴らだ、別に悪いやつじゃねえから安心してくれ」
「本当にぃ?」
「別に悪さなんてしねえよ、ただな、最近、銀の月の飯がうまいらしいって噂を聞いたから、気になってな」
「美味しい! 美味しい! 滅茶苦茶美味しいよ!」
聞かれていないルルーナが答える。
「あ、あのね、ルルーナ、積もる話もあるだろうから、私達はね?」
「ダンジョンに行きましょう」
「ご飯美味しいからね!」
「どうする? 一回食ってみるか?」
「おう、案内してくれや」
そこでルルーナとミックスさんたちが別れてしまったので、状況がわからなくなった。
今の話だと、間違いなく銀の月に来るだろう。
さあ、上手くいってくれるものなのか。
しばらく待っていると、ミックスさんたちが戻ってきた。
相手のパーティは5人組だ。
「忘れ物ですか?」
白々しく聞いてみる。
「いや、友達がここの料理を食べたいって言うから連れてきたんだ」
「どうぞ、ごゆっくりお楽しみ下さい」
「おう」
まだ、お昼時よりも前だ。
準備は大丈夫かな?
「…………」
ミックスさんは大きな身体の戦士だ。
愛嬌のある性格で、みんなに好かれる。
リーダーの神官さんが真面目な人だからバランスが良いんだろう。
赤い風からすぐに移ってきたし、決断力もありそうだ。
十人がテーブルに着くと、ウエイトレスさんがやってくる。
「いらっしゃいませ、ご注文はどうしますか?」
「酒と、うまい料理をくれ、十人分だけど大丈夫かな?」
「まだ、時間が早いので、ちょっと聞いてきますね」
ウエイトレスさんが奥に行く。
ちょっと時間がかかっても出して欲しい。
ハチさんの料理を食べれば、考えが変わると思う。
わたしは、料理を出して欲しいとジェスチャーを送るけど、気が付いてもらえなかった。
ウエイトレスさんが奥から出て来る。
「大丈夫みたいです、席で待っていてください」
「おう、すまねえな」
「いえいえ、すぐ出来ると思いますので」
はぁ、良かった。
さあ、でも、料理で釣られてくれるかな?
ハチさんの料理に期待だ。
それから十分くらい経っただろうか。
お酒が先に出て来て、十人は、軽いおつまみと一緒に飲んで待っている。
「お待たせしました、マーボーナスとソーセージです」
「なんだそりゃあ?」
「次の料理も仕込んでますので、先に食べてください」
ソーセージ美味しいんだよなぁ。
お酒が飲めると、よりいっそう美味しいらしい。
フォークでソーセージを刺すと、おっかなびっくり口に運ぶ。
そして……。
「う、うめえっ!」
ソーセージをガブッと食べると、お酒をがぶ飲みする。
「なんだこのジューシーな肉は、塩とスパイスが利いててうめえ!」
他の四人も慌てて食べ始める。
「うまーっ!」
「なんだこりゃ!」
よしよし、いいぞいいぞ。
掴みはばっちりだよハチさん。
「こっちの炒め物も食べてくれ、肉だけじゃなくて野菜も食えって料理長がうるさくてな」
「辛そうな色だな」
「そんなには辛くないと思うぜ」
リーダーだろうか、また、おっかなびっくり食べ始める。
「マーボーナスうめえっ! 辛くてコクがあって初めて食べる味だ! こんな野菜ならいくらでも食べてやるぜ!」
みんなもマーボーナスを食べていく。
「うまい、このコクと辛みがエールに合うぜ」
「野菜もうめえぜ、とろとろで口当たりが面白い」
そして、友達のパーティーは頷き合った。
「オレ達も、銀の月に移るぜ」
「本当か!?」
よしっ!
ナイス!
「神官が不足しててな、ダンジョンが危険なんだよ」
おおっ、妖精さんの功績だ。
ハチさんと妖精さんのコンボだね。
「そうか、こっちは歓迎だと思うぜ」
残りの料理を全部きれいに食べていく。
「じゃあ、荷物引き上げてくるわ」
「あれ、お客さん帰っちゃうの!?」
ウエイトレスさんが出て来る。
「ちょっと出たらすぐに戻って来るから、料理を頼むぜ」
「わかりました、ちょっとゆっくり作っておきますので」
そして、受付の方にも来る。
「嬢ちゃん、オレ達こっちに移るからよろしくな」
「はい、お待ちしております!」
この人達が噂を広めてくれたのか、この後、赤い風の人達がよく料理を食べに来るようになった。
みんな美味しいって評判で、一週間で5パーティーが移ってきた。
赤い風には20パーティーくらいいるはずなので、まだまだだけど、すごい進展だ。
受付業務も忙しくなってきて、わたしは嬉しい限りだった。