第十四話 料理長採用
さて、今のところ順調にいってると思うけど、コックさんの親方を探すのがまだだった。
料理が美味しければ、赤い風から移ってくる人もいるって聞いたけど、クエストも再開するみたいだし、いっちょ優秀な人を作ろうか。
街で探せれば一番良いんだけど、そんな都合良く凄腕の料理人が職にあぶれているはずがない。
そうなれば、わたしにできることは、親方を『作る』ことだった。
ちょっとコストがかかっても良いから、念入りに作ろう。
スキル、料理(S)が最低限だ。
「さて……<魔物作成>」
職業を、料理人(C)に固定して……。
「ほっ」
「とっ」
「てりゃ」
【名 前】 ハチジロウ
【年 齢】 36
【職 業】 料理人(C)
【レベル】 1
【体 力】 C/C
【魔 力】 E/C
【信仰心】 E/D
【筋 力】 C/B
【生命力】 C/C
【素早さ】 D/C
【知 恵】 C/C
【幸 運】 E/E
【成長率】 C/C
【スキル】 和食〈SS〉、洋食〈SSS〉、中華<S>
【因 果】 転移者(SSS+)、不運
【装備品】 一流の包丁(A)
【気持ち】 ここがどこだかわからない、運が悪い
なんだこれ。
通常よりも、コストが20倍くらいかかる料理人が出来た。
転移者(SSS+)?
これが原因だろう。
この人、わたしと同じ転生者じゃなくて、転移者なんだ。
転移ってなんだろう?
不運っていうバッドステータスがあるから、これくらいのコストで済んだけれども、組み合わせによってはやばかったのかも。
和食とか洋食っていうのもわからないけど……これは、いいんじゃないだろうか。
珍しい食事を作ってくれそうだし、性格が見えてこないけど、36歳ならそれなりに人も使えるんじゃないだろうか?
よし、作成っと。
ポイントがガッツリ減って、15648になった。
ここがどこだかわからないってなってるから、こっちから探しに行かないとだめだろう。
そこに、ママとサーリャとルルーナが帰ってきた。
「お帰りなさい」
「ただいま、コットン、何もなかった?」
「何もなかったよ」
「そう、じゃあ鑑定してもらおうかな」
今日の成果が並べられていく。
その隙に、わたしはサーリャに耳打ちした。
「料理人っぽい人が街で迷子になってるから、探して連れてきて。魔物作成で作ったけど、転移者っていう珍しい特徴を持ってるから、見た目も変わってるかも」
「わかりました、お任せ下さい」
「あっ、名前はハチジロウ、36歳男ね」
サーリャは、ちょっと出て来ると言ってギルドを後にした。
今日は、大物がなかったようで鑑定はすんなり終わり、ママとルルーナは酒場コーナーに行く。
そして、薬草採取に行っていたエレンさんと子供たちの査定を終えた頃、サーリャが戻ってきた。
「見つけてきました、市場でぼんやりしていましたので、すぐにわかりました」
この時間、市場はもうやってないから人が少ない。
そこにぼんやり立っていたら目立つだろう。
「こんばんは」
「こ、こんばんは……」
ハチジロウさんは、ちょっと弱気な感じだ。
不運がつづいたら、人間弱気になってしまうのかも知れない。
「あ、あなた、俺のことを知っているんですか?」
「いえ、腕の良い料理人だって事しか知りません」
「どうして知っているんですか? ここはどこですか?」
転移者ってなんだろうか?
どこかからやってきたのかな?
「神様から啓示がありました、あなたがこの店で料理長をするといいって」
「か、神様……? 神様ですか……」
なんか、がっくし来ている。
「ここなら寝るところも食べるところも、仕事もあります」
「ここは、なんていう国なんですか?」
「ザカール国にあるアデマンドという街です」
「聞いたことがないです……日本語しゃべってますか?」
「ニホンゴ? あなたの母国の言葉ですか?」
元ダンジョンマスターであるわたしが知らない言葉だ。
多分、この世界じゃないどこかから来た設定なんだろう。
「やっぱり……行くところもないんで、今晩はお世話になります」
「わたしはコットンと言います」
「俺はハチジロウです、ハチって呼んでください」
「ハチさんですね、わかりました。後でこの店の経営者に会ってください、採用はその後決定しますので」
おばあちゃんが駄目だと言ったら駄目だ。
冒険者と違って、従業員だからそこは融通が利かない。
「じゃあ、その人に料理を振る舞いますよ、それで決めて下さい」
「わかりました。じゃあ、案内しますね」
わたしは、厨房にハチさんを連れて行く。
コックさんたちは、何事かとこっちを見ていた。
「みなさん、この人が料理長候補のハチジロウさんです、ハチさんと呼んでください」
「和洋中と、一通りやってきました。洋食が得意です。よろしくお願いします」
おおっと、コックさんたちが喜ぶ。
「私達もつい先日ここで働き始めたばかりなんです、まだ料理のことをわかってないので、教えてください」
「教えられることなら、どんどん教えますよ」
コックさんふたりは16、17歳くらいだ。
15歳で働き始めたとして、まだ経験1、2年だろう。
ハチさんは36歳だから、きっと色々教えられるはずだ。
「ところで、見たことのない野菜ですね」
「あ、ここの辺りの出身じゃないんですね、簡単に特徴を教えますよ」
ハチさんは、すぐに材料のコツを覚えたのか、おばあちゃんに料理を出した。
それはものすごく美味しかったようで、即採用が決まったくらいだ。
ちなみに、わたしもハチさんのご飯を食べたけど、てりやきチキンというのが滅茶苦茶に美味しかった。
これは、赤い風の人も思わず通ってしまうだろう。
大成功といえる作成だった。