第十三話 薬草採取
翌日の朝。
ご飯を食べて、みんなが出かけたり休んだりしているときに、おばあちゃんを掴まえた。
「おばあちゃん、依頼を募集しようと思うんだけど、どうすればいいかな?」
「依頼ねぇ、商業組合には話を通しておくから、必要なやつは来るだろうさ」
「ありがとう!」
そう言っておばあちゃんは出かけて行った。
パパは、連日持ち込まれるダンジョン産のドロップ品を整理して、売りに行くところだ。
「パパもお疲れ様、忙しい?」
「そうだね、見習いをふたりくらい雇おうか考えているよ」
商人見習い!
いずれは仕事を任せられるように、今から鍛えておくんだ。
それはいい。
なんか、グッと手応えが出て来ている。
もっと冒険者を増やさないと。
それからお昼頃になると、おばあちゃんが外から戻ってきた。
「お帰りなさい」
でも、誰か知らない人を連れてきている。
冒険者志望じゃないと思う。
「早速依頼だよ、錬金術師が薬草を欲しいそうだ」
「錬金術師? 薬草?」
「話を聞いてみな」
「うん!」
おばあちゃんは酒場のテーブルに着くと、わたしの様子が見えるような位置で飲み物を注文していた。
仕事中だからお酒じゃないと思うけど、案外お酒かも知れない。
「いらっしゃいませ、ご依頼ですか?」
「ああ、これはかわいらしい受付さんだ」
ちょっと割腹のいい感じの中年男性だ。
いかにも商人という感じだけど、優しげな目の奥が笑ってない気がする。
「薬草採取の依頼をお願いしたいんですが」
「かしこまりました、報酬や期限はお決めですか?」
「薬草は、今回限りじゃなく、いつでも定期的に欲しいんですよ」
「畑は作らないんですか?」
ダンジョンの中には薬草の群生地がある。
そこが畑みたいになってるんだけど……。
「質の良い薬草は、マナの溢れる森の中じゃないとなかなか育たなくてね」
「そうなんですね」
「薬草の一大産地もあるんですが、ここからは遠いです」
なるほど、赤い風は依頼が少ないらしいから、この人は困ってたんだろう。
「この辺の森で見つかりますか?」
「ここらの森は穏やかなものだから危険はないが、そう簡単には見つけられなくて困るんじゃないかな」
「なるほどですね」
どんな値段設定になるんだろう。
頭の中でざっと計算していく。
「じゃあ、恒常的に依頼を出す形で、取りあえず金貨を十枚おいていくよ」
「そ、そんなにですか!?」
「ああ、君のおばあさんに頭を下げさせたんだ、それくらいは期待しているよ」
「うっ……」
おばあちゃん、依頼の件で商業組合に頭を下げてきたんだ。
「余計なこと言うんじゃないよ」
おばあちゃんが怒った声を出す。
「ははは、まぁ、そういうことで。買い取る薬草の資料と値段をメモしておきました」
「わかりました、月末に清算しましょう」
「そうだね、そうしてください」
薬草採取はあまり高くない。
基本的には、ダンジョンに行く方が儲かる。
「…………」
これはどうしようか……。
いや、わたしには人材を作れるという強みがある。
作るか、薬草採取のスペシャリストを。
そして、安い人件費を更に用意するしかない。
冒険者を雇うのはきっと無理だ。
「うーん……」
孤児院の子を雇ってみるか。
その子達を率いるリーダーを作る感じかな?
「さて……<魔物作成>」
そんなに優秀じゃなくていい。
いつも、こだわり過ぎてしまうのがいけないところだ。
そして、職業は採取者に固定する。
「ほっ」
「とっ」
「てりゃ」
できた。
【名 前】 エレン
【年 齢】 12
【職 業】 採取者(D)
【レベル】 5
【体 力】 D/C
【魔 力】 E/D
【信仰心】 D/C
【筋 力】 D/C
【生命力】 D/C
【素早さ】 D/B
【知 恵】 B/A
【幸 運】 B/A
【成長率】 C/C
【スキル】 植物知識〈C〉、鉱物知識〈C〉、魔物知識<B>
【因 果】 姉御肌
【装備品】 上等なナイフ(C)、上等なピッケル(C)
【気持ち】 本を書きたい、部下が欲しい
こんなところかな。
可もなく不可もなく。
性格的に、孤児院の子を上手く使ってくれそうだ。
ポイントは、25317。
500くらい減ったかな?
さて、じゃあ孤児院の方に行ってこようか。
これも、断られるかも知れないし、簡単じゃないけど。
「サーリャ、少し受付を変わって」
「どうしたんですか?」
「薬草の採取に孤児院の子を使おうと思うの、交渉に行ってくる」
「それは私がやりましょう、コットン様は待っていてください」
「うぐっ」
むぅ、7歳じゃ無理か。
「現場のことは現場の者に指示をしてやらせてください」
「わかったよ」
サーリャがギルドを出てしばらくすると、女の子が入って来た。
キョロキョロとしている。
「どうかしましたか?」
「おう、すまねえな、ここは冒険者ギルドだろ?」
「はい、そうです」
「オレは採取がしたいんだけど、依頼はあるかな?」
「はい、あります!」
きっと作った子だ、オレって言うんだ、かわいい。
「じゃあ、ギルドに登録をお願いします」
「おう」
パパッと銀の月冒険者ギルドに加入してもらう。
採取専門だけど、立派な冒険者だ。
「それと、今ちょっと事情がありまして」
「なんの事情だ?」
「大口の薬草採取の依頼が入ったんですが、人手が足らないんですよ、なので、孤児院の子に手伝ってもらえないか交渉に行ってるんです」
「なるほど、じゃあ、オレはその子達に採取を教えれば良いんだな?」
理解が早い。
12歳だけど知恵がBだからね。
大人顔負けの理解力があるはずだ。
「そうです、孤児院の子達のリーダーみたいになってくれたら助かります」
「いいぜ、やってやる」
「じゃあ、孤児院の方の話がまとまるかわからないので、少し待っていてもらえますか?」
エレンさんには、酒場でお昼ご飯を食べて待っていてもらった。
しばらくすると、サーリャが子供を連れてもどってくる。
「ただいま戻りました」
「サーリャ」
子供を連れているということは、上手く話がまとまったと言うことだ。
今、不景気だから孤児院も楽じゃないだろうと思っていたけど、すんなり行って良かった。
「子供は十人ほどです、12歳以上の子供にしました」
「そうだね、それが良いと思う」
「じゃあエレンさん、お願いできますか?」
エレンさんは、ご飯を食べ終わると、何の薬草がいくらなのか確認していた。
薬草と言っても色々あるからね。
代表的な買い取り額を見てもらったけど、それでも10種類はあった。
「モンスターはでないんだよな?」
「今日は、私が一緒に行きましょう」
サーリャがそう言ってくれる。
「そうだね、モンスターが居そうか様子を見て」
「わかりました」
エレンさんは、子供たちの先頭に立つ。
「それじゃあ行くぞ、ガキども!」
あまり食べてないんだろう。
元気のない子供たちを連れて、エレンさんとサーリャは出かけて行った。
そして夕方、みんなが帰ってくる頃、エレンさんと子供たちも帰ってきていた。
みんな背中にカゴを背負っている。
出かける前に買ったようだ。
「これは、私からプレゼントしました」
サーリャか。
必要な物は追々揃えていく感じかな。
「うん、ありがとう」
「ここは良い土地だ、薬草がたくさんあったぜ」
エレンさんはご満悦だ。
「どうですか? 子供たちは使えそうですか?」
「ああ、もう何回か行けば覚えられるだろ」
おお、良かった。
覚えられない子もいるかと思ったけど、大丈夫そうか。
「じゃあ、みんなここでギルドに登録してね」
十人の子供たちを一気に登録する。
そして、清算タイムとなった。
「じゃあ、君の薬草は全部で銅貨35枚だね」
「え……こんなにもらえるの?」
「そうだよ、今日は昼からだったけど、朝からいっぱい働けば、もっと儲かるからね」
子供は嬉しそうに銅貨を握りしめる。
「えっと、君は、トリハダ草があるから銅貨40枚かな」
「あ、ありがとう」
「働いたからもらえるお金だからね、堂々ともらって」
お金が稼げることで、みんな喜んでいる。
ちなみにわたしは、薬草の知識ももちろんあるから、買い取りは問題ない。
「エレンさんは明日も行きますか?」
「ああ、行くぜ」
「じゃあ、みんな明日もお願いね」
「やる!」
「がんばるよ!」
今日はごちそうかな。
子供たちの笑顔が眩しい。
出かける前は、あんなに元気がなかったのに。
孤児院にお金を持っていったら、院長さんとか驚くかも。
ちなみに、エレンさんは子供たちの10倍くらい稼いできた。
やっぱり、プロは違う。
そして、エレンさんも部屋を取って、酒場でご飯を食べた。
ルルーナと歳が近いのですぐに仲良くなっていた。