第九章
不思議な場所だった。赤いキノコがぐるりと大きな輪を描くように沢山生えていた。その中に、一人の少年が立っていた。
背の高い、優しい目をした少年だった。黒い髪に、ブラウンの目。
「こんばんは」
少年は私達に向かって言った。彼は妖精に違いない。私は息を切らしながら叫んだ。
「ジャスパーを助けてくれ! 危ない学者に連れて行かれて、人体実験されてしまう!」
少年は眉をひょいっと上げた。
「ジャスパーが……?」
「そうよ。あの子はわたし達の大切な息子なの! お願い、手を貸して!」
「お任せあれ」
少年はパチンと指を鳴らした。すると、キノコの輪の中が揺れて、虫のような小ささの妖精が大勢飛び出した。
「ジャスパーを助けに行っておいで」
少年が妖精達に命令した。妖精は甲高い声で賛成し、あっという間に飛んでいった。
妖精を見送った少年は、キノコの輪を越えて私達に近づいた。
「ジャスパーを育ててくれたご両親ですね?」
「え、ええ……そうです」
少年は優しく微笑む。
「会えてとても嬉しい……いや、妖精の言葉で『嬉しくない』です。ジャスパーから、話はよく聞いていたから」
「口うるさい親だとか?」
「いいえ。人間の言葉で言うと、ジャスパーはあなた達をとても気に入っていますよ」
それから少年は、泣き出しそうなソフィーを慰めた。
「大丈夫、ジャスパーは学者なんかに負けませんよ。それに皆が手を貸しに行ったから。きっとすぐに戻ってきます」