第八章
小切手は、私達二人が一年間は遊んで暮らせるほどの金額だった。呆然としている間に、エバンズはそそくさと帰っていった。
ソフィーがきっぱりと私に言う。
「今すぐ、ジャスパーを取り返すのよ。あのエバンズさんがろくでもないことをする前に!」
「研究所とやらの場所さえ分かればなあ……」
「何言ってるの、ケンブリッジ大学の教授なんだから、大学に行けばいいのよ」
「そうか!」
車に乗り、慌ててエンジンをかけた。ソフィーも助手席に乗り込んだ。彼女は包丁を持っている。
「包丁なんか、どうすつもりなんだ?」
「エバンズさんを脅すのよ」
「捕まらない程度に頼むよ」
だが、私も自分のトンカチを持ってきていた。
車を動かす時、家の裏の森が目に入った。穏やかな朝なのに、木々が風に揺れている。
ジャスパーのお気に入りの森だ。
「さあ、早く大学へ!」
ソフィーが急かす。だが、私はまだ森を見つめていた。
「なあ、ソフィー。妖精ってのは、私達の話も聞いてくれるものかな?」
「え?」
私は車のエンジンを切った。妻はまだ困惑している。
「どういうこと?」
「だからね、ジャスパーが妖精なら、森には仲間がいるはずだ。妖精のね」
「羽の生えた女の子たちね?」
ソフィーがそう言った。私は驚く。
「妖精を見たことがあるのか?」
「台所仕事をしていると、時々窓からやってくるの。お菓子をあげるのよ」
ソフィーは私の手を引き、森へ向かって走り出した。私は、この前の夜、ジャスパーと散歩したときのことを思い出した。
森の中は暗い。だけど道は私達のために開かれていた。どこまで走っても、森の中の景色は変わらない。外から見えているよりも、この森はずっと広いのだ。
「誰か! わたし達の話を聞いて!」
「ジャスパーの危機なんだ!」
私達は森の中を疾走しながら何度も叫んだ。鳥が驚いて逃げていく。だけど、答えてくれる者は誰もいない。
それでも走った。きっとどこかに、ジャスパーの仲間の妖精がいる。彼らは必ず、私達を見ている。そう信じていた。
そして__私達はある時突然、開けた野原に出た。