第七章
土曜日の朝、ジャスパーは珍しく早起きした。
「おはよう、ジャスパー」
「こんばんは」
私は彼に新聞と牛乳をとってこいと言いつけた。いやだとか何とか言いながらジャスパーは立ち上がる。休みなのに、パリッとアイロンをかけたシャツをもう着ている。
「ジャスパーは、朝っぱらからどこかへ出かけるつもりなのかな」
「そうみたいね」
ソフィーも椅子に座り、いれたばかりの紅茶を飲んだ。
「エバンズさんの話、断ったのね?」
「そうだね」
「よかったわ」
「だけどこれからも、あの子の尻ぬぐいやご飯の調達が大変だぞ」
「いいのよ。もうすっかり慣れているんだから」
私と妻は笑い合った。
「ところで、新聞を取ってくるだけなのに、ずいぶん遅いな、あの子は」
「そのまま森に行ったのかしら?」
「そりゃ困る!」
私とソフィーは走って玄関に飛び出した。
ジャスパーはいなかった。新聞が、扉のそばに落ちていた。
ジャスパーの代わりに、そこにエバンズが立っている。
「な、何であなたが……」
「おや、おはよう。アップルトンさん。良い朝ですな」
「ジャスパーはどこです?」
「あの子は我々が確保しました。ご安心下さい。難なく押さえ込めましたぞ!」
ソフィーが小さく悲鳴を上げた。
「ジャスパーを捕まえたっていうのか? いつ誰が、そんなことを許した!」
「あの子は今どこにいるの?」
「今頃、我々の研究所に着いた頃でしょうな」
「その後どうなるの?」
「早速研究にとりかかります。薬の投与、電気ショック、何もかも聞き出した後には生体解剖です」
私はエバンズを殴りつけた。エバンズは吹っ飛んで、石段に頭を打ちつけた。うめくエバンズの胸ぐらをつかみ、私は怒鳴った。
「研究所の場所はどこだ!」
「教えないね。ジャスパーは私の貴重な研究材料だ。誰になんと言われても、もう放すものか」
「私はあの子の父親だ!」
「父親だって? 馬鹿なことを言うな。あんたはジャスパーの父親なんかじゃない。ジャスパーにまんまと騙された哀れな男だよ」
エバンズはふところから、一枚の小切手を出して私の顔に押しつけた。
「これがお礼だ。さっさと金にかえて、ジャスパーのことは忘れるんだな」