第五章
翌日、私が働いている会社に電話がかかってきた。ジャスパーの学校からだ。電話に出ると、なんと校長先生からだった。
内容は、ほとんど予想通りだった。ジャスパーが、いざこざを起こしたのだ。私は妻と一緒に慌てて学校へ向かった。
ジャスパーと、一人のクラスメイトが校長室にいた。ジャスパーはつまらなそうに椅子の端っこをいじっていた。クラスメイトは、頭にたんこぶを作り、青い顔でがたがた震えていた。
私達が到着してまもなく、クラスメイトの両親が飛び込んできた。彼らは、怯える息子を見るなり激怒して、ジャスパーに掴みかかろうとした。先生が止めた。
数十分前、教室で何が起こったのか。先生が教えてくれた。風変わりなジャスパーを、このクラスメイトがからかった。普段はどこ吹く風のジャスパーだが、この時は我慢ができなかったらしい。気がつくと、クラスメイトはふわふわと浮かび上がって、教室の天井に頭をぶつけていた。何人もの子供がそれを目撃した。
私達夫婦は、クラスメイトと、その両親に何度も謝った。それから、先生達にも謝った。
だが、ジャスパーはずっとそっぽを向いていた。
「はっきりいって、アップルトンさん……」
クラスメイト達が出て行った後、担任の先生が、声を潜めて私達に言った。
「ジャスパーは異常な子です。お気の毒ですが」
ソフィーが泣き出した。ジャスパーのことで、学校に呼び出されるのはこれがはじめてじゃない。ある時は二人で、ある時はソフィーが、またある時は私が、ジャスパーの代わりに謝りに行った。ジャスパーがクラスメイトを怖がらせた。ジャスパーが上級生の机にカエルやクモや虫を入れた。ジャスパーが授業中森へ遊びに行った。ジャスパーが……。
「もう、うんざりだ」
私はソフィーに呟いた。ジャスパーはとっくに校長室を出て、勝手にどこかへ行ってしまった。だから、彼に聞かれる心配はなかった。
「本当の息子でもない奴に、これからも振り回されるのは、もうごめんだ」
ソフィーはまだ泣いていた。私は、ポケットの中の名刺を取り出した。あの学者、エバンズの連絡先が書かれている名刺だ。