第一章
私には、奇妙な一人息子がいる。
その子の名前はジャスパー。年は十三。彼は、私と妻のどちらにも似ていない。ぼさぼさの灰色がかった髪も、トネリコの葉の色をした丸い瞳も。妻が毎朝髪をとかしてやるが、上手く整ったためしがない。彼の瞳はいつも私達を通り越してもっと離れた場所を映している。いつも土が挟まった伸び放題の爪は、切ってやった翌日には元通りに伸び揃ってしまう。そう__何から何まで、ジャスパーという男の子は、私の言うことを聞かないのだ。
思えばジャスパーが生まれた時から、私の家は変な空気に包まれていた。満月の夜、私の妻ソフィーは我が家でジャスパーを出産した。急に産気づいて、病院に駆け込む時間がなかったのだ。近所中のベテラン母親たちが集まり、ソフィーとジャスパーを助けてくれた。その間、私は部屋の外でおろおろしながら待つしかなかった。どうか無事に子供が生まれるように、妻が痛い思いをしないようにと神に祈った。窓から満月が見えた。だから私は月にも祈った。
何時間も過ぎて、焦れったさが頂点に達したころ、赤ん坊の泣き声が聞こえた。それは今まで聞いた中で一番美しい声だった。……だが、その後すぐに、女達の悲鳴が聞こえて、私は凍りついた。
たまらなくなり部屋に飛び込む。幸いベッドの上のソフィーは無事なようだった。ソフィーも周りの女も驚いた顔をしていた。何でも、赤ん坊が泣き出した直後に、開けていた窓からつむじ風が舞い込んだのだという。風は部屋をさっと吹き抜け、シーツをめくれ上がらせ、去っていった。赤ん坊もびっくりしたのか、泣き止んだ。
その時私は、初めて赤ん坊を見た。赤ん坊は、まん丸な緑の目を開けて、じっと私を見ていた。私がおそるおそるその小さな手に触れると、赤ん坊は声をたてて笑った。この時のために私は生きてきたのだと思った。ソフィーも幸せそうに赤ん坊を抱きしめていた。
だが、年長の母親達は、浮かない顔をしていた。風に乗って入り込んだ何者かが、神聖な出産を邪魔したと言い張り、私達の幸せに水を差す。この子は普通の子じゃないと彼女達は言った。その時は笑い飛ばしたが、息子が成長するにつれて、私はこの忠告を度々思い出すようになった。