5話:決意と母娘
この話から恋愛要素を出していきます。マジで。
この物語はラブコメです!!
「……はぁ〜」
自室の姿見の前で私服に着替えながら美乃は溜息を吐く。
別にワイシャツと下着を脱いだ事で人並み外れた大きさの胸の圧迫から開放されて思わず息を吐いた訳でも、女性としては高い身長に悩んでいて溜息を吐いた訳でもない。
「あいつ、絶対葵のこと狙ってるよね……」
美乃の溜息の原因は、先程教室で新しいクラスメイトの浅雲由里香が葵をカラオケに誘ったことにある。
あの時、由里香は親睦を深める事を目的としていたと言っていたが、その顔は何日かぶりに大好物を見つけた野生動物の顔だった。
あの時は美乃も誘われていたが、それはきっと葵を油断させるために言って来たのかもしれない。
そう思ったのである。
なぜ美乃が初対面の由里香がそんな事を考えていると読めたのか。
その理由は至極簡単。
「あたしだって葵のこと狙ってるんだから」
美乃も同じだからである。
美乃は小学5年生の頃に起こったある事件をきっかけに葵を男として好きになったのである。だがあまりにも長い時間を共に過ごしていた事から恋する気持ちを違うものと勘違いしており、これを恋と自覚したのは葵が中学で初恋と失恋を経験した辺りからであった。
近すぎる幼馴染の悲しい性である。
葵が振られた時は同情し慰めていたが、同時に自分にも告白するチャンスがあるのでは?と思った。
そして学力の差から諦めていた葵と同じ高校に通うと言う願いが、葵の(謎の)決意により叶い異性として意識させ幼馴染から恋人に関係を変えられるようにしようと決意したのである。
だが、高校入学早々にライバル疑惑を持つ女の登場である。しかも相手はなかなかの美少女。
「葵があいつの所に行ったらどうしよう!!」
そんな不安に駆られていたのである。
「いや、でもあいつが葵を好きと確定した訳じゃないんだし。それにあたしにはこの美貌があるのよ。
それに葵のことはあたしが一番分かっているんだから!どこの馬の骨が分からない小娘(同い年)なんかに渡る前に葵はあたしのものにするんだから!!」
美乃は決意を改めるようにそう宣言し、グッとガッツポーズをとった。
「……あんた何してんのよ?」
「ウェッ!!」
不意に背後から声をかけられた。
「か、母さん!いきなり入ってこないでよ!!」
声の主は美乃の母・久我天乃。
垂れ目をした可愛らしい顔ながら、目の横や口には幾つかの皺が見える。10年近く娘を一人で育てて来た強い母親の顔である。
「ノックしたわよ。でもなかなか返事がないから仕方なく開けたら、あんたがなんかぶつぶつ言いながらガッツポーズとってたから心配になって声かけたのよ」
「ま、まさかさっきの独り言、全部聞いてた?」
「全部は聞いてないわよ」
「そ、そっか……」
「『あたしだって葵のこと狙ってるんだから』って所からだけよ」
「ほぼ全部やないかーい!!」
美乃はガックリと項垂れる。
まさか重要な所を全部聞かれていたなんて……。しかも実の母親に……。
「まぁ、あんたが葵ちゃんの事を好きなのは知ってだけどね」
「え?母さん知ってたの?」
「当たり前でしょう。何年あんたの母親やってると思っているのよ」
「……それはそうだけど、偶にしか家に帰って来ないから知らないと思ってた」
「……それに関しては、ごめんね」
「いいよ。母さん、父さんと離婚してから一人であたしを育ててくれたんだから。それには感謝してるよ」
「美乃」
天乃は美乃の言葉に涙を流す。
「とにかく、葵ちゃんが好きなら誰かのものになる前にちゃんと告白するのよ。幼馴染って負けヒロイン候補なんだから」
「そうだね。母さんみたいにならないように頑張るよ!!」
「黙らっしゃい!!」
美乃の余計な一言に思わず突っ込む。
「まぁ、後悔しないようにしなさい。
それと、葵ちゃん達待ってるんだから早く着替えてお隣行くわよ」
「あ、まだ着替えの途中だった!!」
天乃に指摘されて慌てて着替えを再開する。
「ふっふっふ、待ってなさいよ葵。あたしの魅力に気付かせて絶対あたしのものにするんだから」
不適な笑みを浮かべてそう宣言する美乃であった。
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「……はっくしゅん!……風邪でも引いたかな?
それとも僕の噂かなぁ?」
読んでいただきありがとうございます。
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今回は美乃の母しか出せませんでした。
目標より短くなってしまいました。
もっと書けるように頑張ります。