影の中に1つの光 Vol.1
※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。
20XX年4月10日
「…格差の拡大、深刻なデフレスパイラル、政治の腐敗…
この国が抱える問題は、すべて政治の失敗によって生まれたものである。いま、私たちが成し遂げればならないのは、国民の手に政治を取り戻すことであり、腐敗した政治と国益を蝕む寄生虫共を一掃することである。すべての目標が達成されるためであれば、私は国家と国民に命を捧げると約束しよう!!」
駅前広場に一人の男がいた。深緑色に赤い星がプリントされたTシャツに、ボロボロのワイドパンツを合わせた奇抜な服装であった。その男は、とても恐ろしい形相で吠えるように熱弁していたが、足を止めて演説を聞く者は数人程度だった。
彼は週に一度、同じ駅前の広場で大衆に演説で語りかけるも、大衆には全く相手にされない。人並みの感覚を持った人間であれば、自己不信や自己嫌悪に陥り、途中で投げ出して止めてしまっても決しておかしくは無い程であった。しかし、彼は獲物を襲う獣のような目で通り過ぎて行く大衆に訴えかけていた。その目は、何かに取りつかれたように瞳孔が開いている一方で、未来への希望と自信に溢れた人間の瞳をしていた。
後に彼が権力を握り、この国を危機から救い、好況へと導く「救済主」となることを国民は見当すらしていなかっただろう。また、国民を混乱の中へ巻き込み、この国を地獄の底へ塗り替える「悪魔」となることも。




