ペット
そこは森の中。兄妹だろうか男の子と女の子のふたり連れがやって来る。男の子は両手で箱を大事そうに抱え、その後を女の子がついてくる。ふたりとも悲しそうな顔をしている。男の子が大木の根元で足を止め、箱をそこに置く。箱の中にはネズミのような小動物が4、5匹ほど入っていて、どれも男の子の方に行こうと重なり合うようにしている。ふたりの子どもは箱の中の動物になにか語りかけた後、その場を立ち去る。名残惜しそうに何度もふり返りながらその場を去っていく。
スクリーンの映像が消え、会場が明るくなった。ここは国連の大会議場。会場内には各国の代表が席を並べ、壇上には2メートルを超す巨躯の、人類とは似ているがどこか違う容貌をした者がふたり並んでいる。彼らは自らを異星からの来訪者と名乗っていた。彼らのうちの左側の、少し小柄な方が口火を切った。
「以上が我々の記録に残っている事実です」自前の翻訳機から流暢な英語が流れる。
イギリスの代表が問う。「ただ今見せて頂いた映像は、何年ほど前のものなのでしょう」
「あなた方の暦で、およそ2億5千万年ほど前になります」翻訳機の声が各国代表のイヤホンから流れる。
フランス代表が興奮して発言する。「素晴らしい。皆さん見ましたか、あの樹々を。まさに太古の植物だ。それに映像の傍らに写り込んでいた古代の生物を。まさかこの目で見られる時が来るとは」だが、他の皆はそれには耳を貸さず壇上の客人を見つめ次の展開を待っている。
ドイツの代表が聞いた。「映像が、そして撮られた時期が事実とするならば、あの箱の中に入っていた動物は我々の……」
「祖先ということになります」壇上からの答えがあり、会場がざわめく。
「それが事実かどうかは検証を待つしかありませんが、仮に本物だとして……あなた達が今になってここへ、地球へやって来たのはどういった目的のためなのでしょう」
「ひとつには謝罪です。幼い者だったとはいえ、ペットを無責任に廃棄した我らの祖先の行いは許されざるものでした。この場を借りて深くお詫び申し上げます」
壇上のふたりは頭をさげた。人類でいえば頭の位置にある部位を、だが。そして話は続いた。
「ふたつめは、壊された環境バランスの修正です」
会場がざわめく。ロシアの代表が聞く。「壊された環境とは、いったい」
「我々がペットを捨て、それが繁殖を拡大してしまったことによりこの星の環境は本来進むべき道筋より大幅に外れてしまいました。外来種による在来種の淘汰です。それは正されなければなりません。良識ある者の義務として」
「それでは我々は、人類はどうなるのだ」米国の代表が立ち上がって叫んだ。
壇上の異星人は動じずに応える。抑揚のない言葉が翻訳機から流れる。
「進化を遂げ、文化を築くまでに至ったあなた方には誠にお気の毒だとは思います。同情を禁じ得ません。ですがルールというものは絶対であり、正しき行いは遂行されなければならないのです」
会場は静まり返り、次の言葉を発するものは誰もいなかった。そして日本の代表が呟いた。
「いるんだよなあ、こういうやつ」




