ピピの看取り
その家庭には小さな男の子がいる。その子は三歳になりかけだったが、まだ明確な言葉をしゃべることがなく、その子の親は少し心配していた。
そんなある日、父親がある生き物を連れて帰って来た。それは水色と白が混じったセキセイインコの雛だった。息子がペットと触れ合うことで、何か変化が起こり、言葉をしゃべるようにならないかと考え、そうしたようだ。
男の子は、箱に入った小さく可愛らしい雛を、目を輝かせて見ている。そして、しばらくして、
「ピピたん! ピピたん!」
と、言いながらはしゃぎ回り始めた。息子が言葉をしゃべったのを聞いた、父親と母親は驚き。歓喜の笑顔をそれぞれ浮かべた。
男の子とセキセイインコのピピの生活は、微笑ましく楽しいものだった。
男の子は小学生になり、家に帰るとまずピピの餌やり水やりと、ケージの掃除を欠かさずやった。ペットの世話を自分でやることにより、自発性や思いやりが自然と身につくと親は考え、男の子の仕事にしているようである。実際、男の子は非常に良い子に育っていた。
「ピピも5歳になったね。おじさん鳥だね」
男の子は、手乗りのピピを指に乗せ、いつものように愛しんでいる。男の子に友達はいるが、ピピが最初に出来た一番の友だちなのである。
「かわいいおじさんだね、ピピは」
5歳になったピピにそう話しかけるのはいつものことだったが、母親はその様子を見て優しく微笑んでいる。
ピピはセキセイインコにしては長生きをした。しかし、人間のようにはどうしても生きられない。男の子にとって辛い別れの日が近づいて来た。
ピピはおじいさん鳥になって以来、体調を崩すことも多くなっていたが、死期が徐々に近づき、餌食いも悪くなり、若いころのようにあまり鳴かなくなり、弱っていく様子が顕著に見られた。
そして、ピピが9歳になってしばらく経ったある日……
ピピはその日、餌も水も食べず、ケージの下の方で、ずっとじっとしていた。
「ピピ……もうダメかい……」
男の子はそう言うと、ケージからピピを出し、手のひらに乗せた。ピピはやはりじっと動かない。ただ、男の子の手のぬくもりは感じているようだ。
男の子は手に乗せたピピに、こんなことがあったね、あんなこともあったねと出来る限り話しかけた。ピピは動かないが、じっと聞いているようだった。
そして、男の子がいろんな話を話し尽くし終わった時、ピピは「ピッ」と鳴き事切れた。
ピピの亡骸を手のひらに乗せたまま、男の子はその晩、ずっと泣いた。悲しい別れだった。
ピピが天寿を全うしたその夜、男の子はピピの夢を見た。夢に出てきたピピは若いころの姿で、元気に草原を飛び回っていた。
男の子は、ケージの中にいるピピを見て、いつも、外で一緒に遊べればいいなと考えていた。それが夢の中ではあるが叶い、飛び回っていたピピは、男の子の肩の上でいつの間にかくつろいでいた。そして、ピピと一緒にひなたぼっこをしていた所で夢から覚めた。
ピピは家の庭に埋葬された後も、よく男の子の夢に出てきた。いつまでも男の子を見守るように……。