葛藤〜リアルタイムを殺人部屋へようこそ〜 第6章
第6章
「痛っ」
……頭がズキズキする。昨日は色んな事があって全然眠れなかった。万引き犯が見つかって、真帆が私の身代わりで死んで、そして何よりも、"この茶色いシミ"……
真綾はゆっくりと亮と真帆が死んだあの部屋に行った。
……そういえば、真帆、言ってたな。真犯人はこの中にいるって……
「慎也を呼んだけど何も返答がなかった」
1番最後に来た悠が呟くように言った。
「私、昨日眠れなくてずっと起きてたけど、銃声は聞こえなかったから、殺人犯が殺したんだと思う」
「物音とか、争う声とか、何もしなかったのか?」
「何も聞こえなかった」
「よし、凶器を整理しよう。昨日悲鳴もしないって事は寝ている間に殺された可能性が高い。鉄パイプで撲殺だと何も聞こえなかったって言うのは考えられない。ロープも苦しくて目が覚めて抵抗するだろう。」
「てことは、凶器は残るナイフだけ…。あとは殺人犯を探すことが出来れば勝てるね」
まるでこの部屋には悠と真綾しかいないかのように2人の声だけが響いていた。
「胡桃、話がある。ちょっと来て」
悠は胡桃を廊下に連れ出して、部屋には真綾と誠人の2人だけが残った。
……最初は8人いたのに、もう半分になっちゃった。みんなのこと、色々知って、特に真帆とは仲良くなれたと思ったのに。もっと違う形で真帆と会いたかった……
「…寂しくなっちゃったなぁ」
真綾はボソッと呟いた。
「そうですね」
「……嘘でしょ?本当は内心笑ってるくせに。あなたは全部知ってるんでしょ?」
身体の内部まで見透かすX線のような目で真綾は誠人に詰め寄った。
「な…なに、なんの事」
「昨日真帆が言ってた。私達をここに連れてきた犯人。それって、あなたでしょ。胡桃ちゃんと悠はカップルだもん。そんなことするとは思えない。それにさっき悠と話してた時、誠人は何も言わなかった。昨日までは話し合いに参加してたのに。本当のこと、バレるのが怖くなったのでしょ。
それと、あなたは前にもこうやって何人が閉じ込めて殺し合いさせていた。その時、いま私が使っている部屋を使っていた人は夜、殺人犯に殺された。遺体はないけど血痕は残ってた。あなたの目的は何?」
「あーあ、バレちゃったか。初めてだよ。僕の本性を知られたのは」
誠人は不吉な笑みを浮かべて言った。
「なあ、胡桃。お前、殺人犯だろ」
胡桃を廊下に連れ出した悠はゆっくり口を開いた。
「なんでよ。やめてよ、悠くん」
胡桃は口角をあげて見せたが目は笑ってはいなかった。
「お前は殺人犯とか凶器を探す話し合いには参加しない。何かおかしいと思ってたんだよ。話し合いに参加して、うっかり口を滑らすのが怖くて何も言えなかった。違うか?
それに、初日ドアノブ触るのも最後まで嫌がっていた。俺と一緒に触ったあと驚いて、でも何かホッとしたように見えた。電流が流れなかったら殺人犯なのバレるから電流が流れてホッとしたんでしょ」
「…悠くん、ごめん。私たち、もう終わりだね。悠くんが言う通り、私が殺人犯。菜緒と慎也を殺したのは私。」
「ごめん、胡桃。…ちょっと、1人で考えたい」
悠は胡桃をその場に残し、自室へ向かった。
「覚悟はしてたけど、辛いなぁ」
胡桃はその場に座り込み、顔をうずめて泣いた。
「こんな形で悠くんと別れなきゃいけないなんて、思ってもみなかった。
……ねえ、悠くん、私のことなんか放っておいて、悠くんは生き残ってね。悠くんは、悠くん達が勝つことだけ考えればいいんだよ」
悠は自室に入り、1人頭を抱えた。
……胡桃はやっぱり殺人犯だった。俺と胡桃はチームが違うから2人で生きて帰る事はできない。俺は、胡桃の彼氏だ。彼女を見捨てて自分だけ生き残るなんて卑怯な真似できない。でも、胡桃は自分の手で俺を殺すことはできない。俺がわざと告発を間違えて胡桃が勝ったとしても、彼氏が目の前で死んで、胡桃の心に傷が残るんじゃないか……
「あぁ、もう。俺はどうしたらいいんだ」