葛藤〜リアルタイムの殺人部屋へようこそ~ 第5章
第5章
「私の叔父はコイツに殺された」
そう言って真綾は慎也を指さした。
「僕は、万引きはしたけど人殺しはしてない」
慎也は窓ガラスの割るような勢いで叫んだ。
「私の叔父夫婦は本屋を経営していた。立花書店」
本屋の名前を聞いた瞬間、慎也は肩を震わせた。
「ある時から本が万引きされるようになった。それも、学校で流行っていたものばかり。私と同年代が犯人だろうと思ってはいた。
万引きされてから経営が立ち行かなくなった。しばらくして本屋は潰れた。そのせいで叔父は自己破産して、心を病んで自殺した。
……ねえ、叔父の本屋から万引きしたの、お前だよね?お前が潰したんだよね?お前が自殺に追い込んだんだよね」
真綾は慎也を問い詰めた。慎也は首を縦に振らないものの焦点の合っていないその目は真綾の言う通りだと認めたのは誰の目から見ても明らかだった。
「絶対にお前を許さない」
真綾は慎也を突き飛ばすと自室へと走り去った。
……まさか、万引き犯とこんな所で会うなんて思わなかった。アイツなら平気で人を殺せそう。アイツが殺人犯に違いない。…でも、もし外れたら?私どうしたらいいのだろう……
「よし、決めた」
真綾は立ち上がりながら大きな声を出した。ズキズキとした痛みが体中を走る。それは長い時間立っていることを物語っていた。
「あ、真綾。今呼びに行こうと思ったんだよ。落ち着いた?」
「うん」
真綾は時計を見ながら言った。
……そっか、もうすぐ告発の時間か……
「私、慎也を告発する」
「おい、お前正気か?」
「そうだよ。まだ時間まで30分ある。考え直して」
悠と真帆に止められたが真綾の心はビクともしなかった。
「正気だよ。考えて決めたことなの。もし外れたら迷惑かけるかもしれないって。…でも、ごめん。それでも私はコイツが生きているのが許せない。コイツを殺すためなら私は死んでいい。明日、凶器が2つに絞られるかは、私が死んだ後よろしくね」
真綾は小さく笑って見せた。
「真綾は死んじゃダメだよ。私がやる。もし慎也が仲間で生き残った時、慎也を苦しめていいのは真綾だけよ」
真帆は真綾の手を握る。
「みんな、狂ってるよ。どうかしてる。なんで平気で自殺行為できるの?……もう嫌だ」
胡桃はため息をついてうずくまる。
「……真帆なんで?」
「私は記者なの。このゲームの仕組み的に記者よりも村人の残る方が大事でしょ。菜緒が告発した時、次は私だって思ったの。それに……」
真帆は泣き笑いのような顔を作って続けた。
「私、生徒会長だから。生き残ったとしても生徒会長が何日もサボったってことになったら大変だし。最悪、殺人で警察沙汰になったら学校の名に傷がついちゃう。私は生きて帰っちゃダメなんだ」
真帆は自分に言い聞かせるように何度も呟いた。
「私は、死ななきゃ。……それが生徒会長としての最後の仕事。私の仕事は死ぬこと」
真綾は言葉が出ず、黙って涙を流すしかできなかった。
「それでね、最期かもしれないから、聞いて」
真帆はくるりと振り返った。
「私の最期の考察。多分だけど、私たちを拉致監禁し亮を直接的に殺した犯人は、この中にいる」
「誰だよ。それ」
「なんでそんなこと言えるの?ここにいるのはみんな被害者だよ」
「そうですよ。仮に真犯人がこの中にいたとしても犯人だってなんの利益はないでしょ。その真犯人が殺されるかもしれないのに」
悠、胡桃、誠人が口々に言い出した。
「まず、昨日の夜、亮は殺される直前立ち上がった。なのに亮は心臓を撃ち抜かれてた。あの短時間で状況を把握し、確実に心臓を撃ち抜くのは、ここにいないカメラか何かで見ている人には不可能に近い。
それと、ゲームを妨げるような行為をした場合、銃殺すると言っていた。ここにいない人物が行うとすると至る所にカメラを仕込むはず。だけど今朝どこを探してもカメラは見つからなかった。隠してあったとしてもたった1つさえも見つけられないってことは、ここにはカメラがないっていう可能性の方が高い。
要するに、真犯人は被害者ヅラして私たちと一緒に行動することで皆の動向を見張ってるってこと」
真帆は全員の顔を順番に見つめる。
「悠、胡桃、誠人、…真綾。この中に私たちを連れてきた犯人がいる」
真帆の左胸に薄緑色の光が合わさる。それと同時に銃声が鳴り響く。白いセーラー服を真っ赤に染めて倒れる真帆。
真綾は体の糸がプツンと切れ、しゃがみ込んだ。滝のように流れる涙はなかなか止まらなかった。
「真帆…どうしよう。私、真帆が居ないと無理。…せっかく、友達になれたと思ったのに……」
悠と慎也は黙って遺体を運んだ。フラフラと真綾もついて行く。布を被せられた亮の近くに広がる"茶色いシミ"
真綾の心臓はドクンドクンと波打った。
……昨日は真っ赤な血が流れてた。でも、1日経って茶色っぽく、変色してる。もしかして、私の部屋にあった"茶色いシミ"は……